第2話 タイムリープ

俺は目を開く。


とある空き地だった。先程までガレージにいたから無事に到着したという事だろう。だが前回のタイムリープしか時間軸とは違っていた。ふとデジタル時計を見る。


時刻は時貞摩耶が殺される1時間前というものだった。


「かなり切羽詰った時間だな。」


着用していたスーツの胸ポケットには俺がいつも愛用していた拳銃、ディクテイターと呼んでいるブローバック式のハンドガンが1丁だけあった。


「やれるか・・・・・・。俺。」


生唾を飲み込む。何度も失敗している。もう御免だ。もう愛する人の亡骸を見る事なんて・・・・・・。


目の前の曲がり角から女性がやってくる。


地上に着くかと錯覚するみたく伸びた髪の毛。白いワンピース。透き通るような青い瞳。


その姿はまるで天使のようであった。


「綺麗だ・・・・」


俺はつい言葉にしてしまう。


だが、そんな事を言ってる暇はない。


時は一刻一刻と迫っている。なんとか彼女を助けなければならない。


「久しぶりだな・・・・・・。時貞摩耶さん。」


まるで偶然を装ったようにして俺は出現した。


「あなたは・・・・・・・確か・・・・・・・」


ゆったりとした口調にお嬢様言葉。そして思い出そうとして頭を悩ます姿もまた可愛く、愛らしさがあった。

俺とは違う世界の住人だということを再認識させられる。俺なんてあなたに出会うまでは愚かで醜く、人の命を奪い、命をゴミのように扱う組織で過ごしていたのに・・・・・・。


彼女と出会った時、俺の全てが変わっていった。俺の考え全てを否定することなく、彼女は俺を包んでいった。そして俺が組織を抜けるきっかけを作らせたのだ。


そんな思い出が蘇る。だが今はそんな思い出にふけっている時間はない。


俺は彼女の腕をつかむ。


「説明は後だ!俺に黙って付いてきてくれ!」


俺はそう言い、彼女と共に走り出す。空き地を抜け、1キロ先の公園を目指す。


「何をするんですの?」


何も知らないお嬢様な彼女は少し焦った声を出しながらも落ち着いた雰囲気を保っていた。


「俺のことは覚えてる?」


彼女は考える。


「あなたは・・・三日月・・・・・・ええっと・・・・・・。そこまでは覚えているんですが・・・・・・。」


彼女は息を切らしながら応答を続ける。そして走り続けた。周りには多くの工場が立ち並ぶ。時代錯誤にも思える大きな煙突やワゴン車も多く並んでいた。


「俺は三日月悠也。思い出した?」


狭い道を通り抜け、細い路地へと入っていく。次の角を曲がった先のビルで休憩をしようと思っていた。


だが、俺の自己紹介が終えた時であった。バァン!と銃声が鳴り響いた。どこからだ?


俺は胸ポケットからディクテイターを取り出す。不注意だった。前方にあった廃屋のガラス越しからスナイパーが狙い定めていたのだ。


「大丈夫ですか?時貞さ・・・・・・」


俺が後ろを振り向き、彼女を見たときには全てが遅かった。


手を握っていた彼女の力が一気に弱くなり、彼女は地に膝をつけて倒れていった。胸より数センチ上の部分からは大量の血が流れていっていた。


「冗談だろ!」


俺は急いで敵に狙われない位置へと急いで彼女を隠した。苦悶の表情を見せる彼女は見ているこちらが苦しかった。


「ここで待っていてくれ。」


119を呼び、俺はディクテイター片手にまた路地へと出向く。理由は簡単だ。


「殺してやる・・・・・・!」


怒りに震えていた。俺は組織の裏切り者だ。奴らは俺も共に葬りたいはずだ。


バァン!


銃声が聞こえた瞬間に俺はダッシュで避けた。弾丸が自分の足元で弾けた。が、


「うっ・・・!」


俺はその場に倒れ込んだ。ぱたっとまるでその瞬間絶命したように倒れ込んだ。


銃弾が放たれた場所からスナイパーの位置を逆算した。


(奴は移動をしていないな・・・・・・。)


先ほど、時貞摩耶を撃った場所、目の前の廃屋からは移動していなかった。と見積もった。


俺が死んだ事を確認するためにスナイパーはこちらへとやってくるはずだ。俺はそれまでこのまま死んだふりをしていればいい。簡単な事だった。


カツカツカツ・・・・・・。足音が徐々に大きくなっていく。間違いない。この足音がスナイパーだ!


カツ・・・・・・。足音が止まった瞬間であった。


「死ね!」


俺は素早く立ち上がり、ディクテイターのトリガーを思い切り引いた。


弾丸が素早く射出されていき、正面にいたスナイパー銃を持ったスーツ姿の男を貫いた。


男はなすすべもなく倒れていく。アスファルトが血に染まる。


俺はそんなものに構いはしなかった。


「摩耶さん!」


彼女を隠した場所へと急いだ。


目を閉じた少女。応急処置を施したが血は流れていっていたようだ。


「大丈夫か!おい!しっかりしてくれ!救急車もすぐ来る!」


俺は彼女の体を支えて揺すった。


彼女はゆっくりと目をあける。


「三日月さん・・・・・・。あなたは一体・・・・・・。」


か細い声で俺の言葉に応答しようとする。


が、彼女はゆっくりとまた瞳を閉じていった。




「やめろ・・・・・・!目を開けてくれ・・・・・・!やめてくれー!」


俺は必死に叫んだがこの声は彼女に届くことは無かった。彼女の呼吸が止まるのを確認したのだ。


その瞬間、雨が降り注いだ。屋根が欠損しているので雨がこの屋内に降り注ぐ。彼女の血が雨により滲んでいく。


そして少年の涙も彼女の血を歪ませた。



ふと無意識に俺は目を開いた。蛍光灯が光っており、ベッドに寝転がっていた。


悪い夢を見ていたのか・・・・?と疑ったが、間違いなく夢ではない。


「あら、目が覚めたのね」


横から女の声が聞こえてくる。声の正体は知っている。


横には金髪の女が雑誌を読みながらこちらをジロジロ見ていた。



「1年を無駄にした気分は毎度良くないものだよ」


俺はテキトーな返事だけを返す。そして時計を見る。時貞摩耶が殺される時刻から2日と3時間が経過していた。


頭が少し痛い。少し疲れたのだろうか。


「早くチケットをくれ。すぐにでも・・・・」


と言いかけた時、


「何回も連続でタイムリープをやり過ぎよ。」


女が俺の行動を止めようとする。


「肉体は疲労しなくてもこれまでの記憶はあるはずよ。精神にはかなりの負担があると思うの。」


女の説明はごもっともだ。だったら少しだけ休んで・・・・・・。


と横になろうとした瞬間だった。


「私、あなたの話、聞きたい!ねえ!いいでしょう!」


女の声がけたたましい。話を変えて気分転換をさせるつもりなのだろう。まあ静かに休むつもりはないからいいのだが。


「まあ、いいだろう。」


俺はしゃべり出す。俺という人物、何故こうなったのか・・・・。少しくらい自分語りをさせてもらおうか。

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