第三章 楓の『終』幕 桃子視点 PART3
9.
京都についた桃子は早速、初日の目標である海住山寺に向かった。ここで楓の居場所が掴めたらそのまま探るつもりだ。しかし山の中にある五重塔を見た時には違和感を覚えた。
写真の風景とは全く違ったのだ。職員に話を聞いたが、確かに修復を行なう予定があったらしい。しかしそれは取り消しになったとのことだ。楓の名前を出してもかぶりを振られるだけだった。写真を見せたが申し訳なさそうにわからないといわれた。
次の日、東寺に向かったが五重塔を見ただけで違うとわかった。写真では周りの木の方が背が高かった。東寺は五重塔の中で一番大きく50mを越えている。木の方が大きくなる構図は撮れない。
京都には国宝といわれる塔は二つしかない、つまりどちらでもないということは何かが間違っているということになる。
楓は見栄を張って国宝の仕事を請け負ったといったのだろうか? もし国宝でないのであれば、また別の日に来なければならない。
東寺の職員に話を聞き、京都にある全ての五重塔の場所を尋ねた。そのうち市内に四つあるとのことだった。桃子は移動手段を教えて貰い全ての五重塔に向かった。だがどこも写真とは違った。
本当にこれは五重塔なのだろうか?
前に進むたびに疑念が生じ最後の建物に辿り着いた時には胸を焦がす焦燥感しか残らなかった。
旅行最終日。
桃子は予定通り清水寺に向かうことにした。今回は無駄足だったがまた改めて出向くしかない。五重塔は京都だけではない、日本各地に存在しているのだ。蘇鉄の言葉を信じていればきっとそのどこかで出会えるだろう。
……予定通り清水寺を見学しよう。
リリーとの約束を思い出しカメラを握る。携帯を忘れていたのでメールを送ることはできないが、デジタルカメラで鮮明な画像を撮って帰れば喜んでくれるだろう。
拝観料を払い清水寺に入ると一陣の風が彼女の側を通った。秋風が火照った体を優しく撫でてくれている。
桃子は清水の舞台から景色を一望した。辺り一面が真っ赤に染まっており別世界に入り込んだようだ。
屋久島の穏やかな世界とは対照的にこの清水の紅葉は心を激しく高鳴らせていた。緑、黄緑、黄色、オレンジ、赤のグラデーションによる色の移り変わりは生きている虹を見ているようだ。情熱的な色彩が桃子の暗く沈んだ心まで染め替えていく。
いくら見続けても飽きることがない非日常の空間がそこにある。たくさんの観光客の行き交う中、その景色に釘付けになった。
しばらく無心で眺めていると、観光客の会話が桃子の耳に入ってきた。何でもこの奥に濡れて観音という場所がありお願いごとを聞いてくれるらしい。
早速向かうとガイドの男性が石で囲まれた観音様に柄杓で水を掛けている所だった。水を掛けている所に皆お祈りをしている。桃子も便乗して一緒に祈ることにした。
……どうかお父さんが関係している五重塔が見つかりますように。
お祈りを終え目を開けると目の前に背の高い男が突っ立っていた。
よく見る顔だと思うと店長の椿だった。
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