第二章 『花』火の閃き PART1

  1.


  ……なぜ私はこんな所にいるのだろう。


 リリーは筋肉痛になった足を引きずりながら山の頂上を目指していた。全てがエメラルドグリーンに覆われた土地で登山靴を履き、たった一本の杉を見るためだけに旅行に来ている。体は無意識に動いているが、心がついていかない。


 ……まさか有休を使って彼と二人でこんな所に来るなど想像していなかった。


 自分の100m先には花屋の店主・春花椿 《はるのはな つばき》 がいる。彼はしなやかな体を生かして、猿のように素早く山を登っていく。


 ……それも、後もう少しだ。


 汗をたぐりながら時計を見ると、山登りを始めて三時間半が経っていた。もうすぐ目当ての杉が見える。鹿児島の屋久島に来て三日、ようやく目的地に辿り着いたのだ。


 ……あれがお母さんが好きだった木。


 リリーは天高く聳(そび)える杉を見た。その木は空高く天空を突き刺しているように見える。

 夢中で杉の元に近づくと、これは一本の杉などではないと感じた。自分が想像していたものを遥かに超えている。


 この木は、まさに一本の『森』だ――。  

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