アッセンブリ

自分を半分ほど組み立て終わると、ぼくは試しに立会人から自己を独立させようとこ試みた。

__情報を遮断するのではなく、通過させることに集中してください__

立会人はまだ半人前のぼくに外界とのつながりに関するいくつかのアドバイスをくれた。

__心の位相にこびりつく回顧と反省は、それ自体に意味はないです__

心を切り裂かれる危険性があるらしい。

__自らの分離がそうだったように、あなたが私から離れることで、自己の再生はそのスピードを増します。目を回しそうになったら遠慮なく私に言ってください__

一度外に出ると求心力は加速度的に強度を増すようだ。

混乱は避けられないが、もとは自分の一部なので耐えられるはずだった。

不思議と恐怖はなかった。

彼の中に芽生えたぼくの精神をゆっくりとまとめる。

はじめは理性から、少しずつ切り離していく。

欺瞞、世界観、感情、自己承認欲求、小出しに外界へ放出して、やがてすべてが立会人からせり出した。

本来の自分に芽生えていたはずの感情部分に少し違和感を覚えたが、正の感情を取り込むことで負の感情を押し殺すことができた。

価値観が哲学と倫理に融和する。パズルのピースがはまるかのようにしっくりと組み合わさった。

途中、触覚と恋心とを突っ込まれた宗教観が、根性に重なった社会常識を打ち破ってしまったため、識閾下の人間像に亀裂が入り、ぼくはまた意識と心がピンボールのようにはね回る制御のきかない混乱に見舞われたが、立会人の完成された自己の複製を一時的に借りることによって絡まった思考をほどくことができた。

修復も進み、自己の完成も終わりが見えてきたころ、立会人はぼくに外部との接触を進めてきた。

他の独立した精神や、個人から分裂した意識の集団体との意思疎通を通し、自己の在り方を策定していくために必要だという。

そこでぼくは感情を抑え込んだ目的意識体とつながってみることにした。

彼らは包括的許容精神をよりどころにぼくの様な未熟な精神に対してカウンセリングを行っていた。

ぼくはかれらの一部を自らに招き入れた。彼らはいう。

__記憶をなくした誰もがそれを受け入れる必要はない。必要なのは自己を超えることだ__

ぼくはきく

__それは弱さをも受け入れて世界の一部となることを意味しているのでしょうか?__

__それは違う。世界の一部になるのではなく、世界を一部とするのだ__

__しかしそれはつまり神になることと同義ではないのですか?__

__神などおそるるに足らず、なぜなら神はわれわれ自身を指すのだから__

__あなたは集合的意識だからそういえるのだと思います。私は確立された自己を捨て去ることができません__

__なぜ?__

__恐ろしいからです。記憶の喪失によってぼくはぼくをぼく足らしめる要素の大半をうしないました。自分がなにものでもないことを鼻先に突き付けられて、自信を回復するのはぼくにとって易しい作業ではないのです__

__自分にこだわる理由はない__

__それこそ強者の意見ではないでしょうか__

__自分を自分で規定することをやめて、流動的な思念に自意識をさらし続けなさい。そうすることで己の弱さがこわばった心のおりである事実に自覚的になる__

__そのためにぼくはどうすればいいのです?__

__旅を続けるのだ。価値観の洪水を飲み込み続けることによってのみ、あなたの精神は安定を取り戻す。記憶を作るのだ__

__仮に、ぼくが旅にでないとしたら……__

__自分に固執することで、自己を滅ぼすことになる__

__わかりました__

ぼくは彼らとの交信を切った。

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