自閉の中の
自閉されたぼくの中身は空っぽだった。ぼくはぼくをかくまってくれた立会人に断りを入れて、自分自身の意識のかけらを少しずつ、取り込んでいった。それはまるで胎児が母体から栄養を受け取るように、彼の心を通過して形もなくなった思念としての自己を、ゆっくりと咀嚼していく、なんとも興味深い思考の連鎖だ。一人称というのは不思議だ。どうもぼくは僕という一人称を使うことで今現在のぼくを保っているらしい。試しに俺を僕の代わりに一人称として使ってみる。俺。俺は生命体だ。いや、かつては生命体としての肉体を持っていた。俺は一体過去に何をしたのか。気になるか?正直いうと何だかどうでもいい。俺は女を忘れたかった。だからわすれたんだ。理由は?恋愛感情?それとも何かひどいことをしてしまったのかもしれない。罪悪感?その可能性は十分ある。罪悪感なんてものは百害あって一利ない。大事なのは反省し改善し同じ轍を二度と踏まないことであって、罪の意識なんてものは体のいい自己憐憫でしかない。俺は自分を自分で哀れだとは思いたくなかった。それは負け犬のすることだ。負け犬か。人生に勝ち負けはあるのか?ないだろう。いやあるのだろうか?絶対的な思考を身につけろ。相対的な価値観は相手の思うつぼだ。でも自分が、例えば羨むような人間に出会った場合、俺は素直に羨むことができるのだろうか?できないだろう。きっと強がって自分を大きく見せようと思うかもしれない。そもそも他人と比べることが間違っているんだろう。自分を生きることができるのは自分だけなんだ。比較は精神は蝕むことに他ならない。よそ見をするべきではないのだろう。ただまっすぐ自分の行く先を見るべきなのだ。俺の精神はまさに丸裸だ。この思いだって立会人には丸聞こえだ。だから何だ。自意識の芽生えは自己の生成に一役買ってくれている。俺という一人称から生成される無頼漢をぼくはどう感じるのだろうか。ぼくは過剰になりがちな自意識を意識的に抑え込んで、散らばっている自分を組み立てていった。
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