土地神様
第48話 土地神様 その1
昼休み、いつものようにいつきと雪乃が雑談をしている。この間の事を話したくなってウズウズしていた彼女は、当然のように雪乃に妖怪退治の顛末を面白おかしく脚色して話していた。付き合わされる方の彼女ももう慣れたもので、愛想笑いをしながらその話を受け入れている。
「いやぁ~妖怪退治、中々面白かったよ」
「いつきが無事で何よりだよ」
その流れで雪乃がいつきの心配をしていたと告げた所、彼女はケタケタと笑いながら話を続ける。
「私?無事に決まってるじゃない。こっちには魔法のステッキがあるんだから」
「だけど、その妖怪が危険なものだったら……」
「まぁね、今回は運が良かったよ」
あんまり彼女が心配するものだから、いつきも自分の言動を少し反省する。窓の外の空を眺めながらその言葉を独り言のようにつぶやくと、同じように空を眺め始めた雪乃が念を押すように強めの言葉で彼女に自分の想いを伝える。
「あんまり危険な事に首を突っ込まないでね」
「了解であります!」
真剣に心配する雪乃の言葉に深い情愛を感じたいつきは、自分にも言い聞かせるように敬礼をしてその想いを受け入れる。そんな彼女の顔を見た雪乃は安心したように笑みを浮かべ、しかしそれ以上言葉は続けなかった。
そうしてその日は何事もなく過ぎ去り、放課後。珍しく都合の合った2人は仲良く下校する。帰り道でも学校の事や最近の流行、お互いの家庭の事情などを話していたら時間はあっと言う間に過ぎ去り、やがてお互いの別れ道に差し掛かった。
「じゃあ、また明日!」
「またね!」
ひとりになったいつきは普段と変わらないテンションで自宅に向かって歩いていく。今の彼女の頭の中は、最近使いこなせるようになった魔法のステッキの事でいっぱいだった。
ひとりになった事で心のタガが外た彼女は、ステッキを持っている体でブンブンと腕を振り回し始める。
「さぁ~て、今日も帰ったらステッキの腕を磨きますかあ……」
エアステッキを振り回しながら道を歩いていると、いつきは不意に周りの景色に違和感を感じ始める。この感覚が正しいものか、それとも疲れて変に意識しているだけなのか、今の彼女には判断がつかない。
ただ、最近は疲れるような生活をしていない為、どうにか自分の感覚は正しいはずと自分に言い聞かせながら歩いていた。
「あれ?おかしいな……」
具体的に何がおかしいかと言うと、もうそろそろ自宅に辿り着いても良さそうなものなのに一向に自宅が見えて来ない事だ。狐に化かされると道に迷って、通い慣れていても目的地にずっと辿り着けなくなるらしいと言うけれど、今の彼女はまさにそんな状態だった。
周囲の景色には全く違和感がないのに、その景色がずっとループしている。いつきはさっきからそんな不思議な感覚に襲われていた。
「あれ?どこここ?迷うなんてありえない……」
(べるの!べるの!)
もしこの感覚が幻で、実際にはちゃんと歩けていたのなら、そろそろテレパシーでヴェルノと会話が出来るはずと、彼女は必死に心の中で彼に呼びかける。
しかし、何度必死に強く呼びかけても彼からの返事が返ってくる事はなかった。
「返事が届かない?やっぱり変だ!」
そこから考えられる事はこのおかしな感覚に襲われてから自分はあんまり移動していないと言う可能性だった。こう言う時はパニックにならずに冷静になる事が事態改善に一番効果がある。
そう思ったいつきは一旦立ち止まると目を閉じて深呼吸をして息を整える。
それから今何をすれば一番最善か必死に頭の中でシミュレーションする。これがまた何かからの攻撃の結果だとしたら、未だにその攻撃の前兆も見られないのは不自然だ。だからきっとそうではないのだろう。
もしかしたら何かの拍子に異次元的な空間に迷い込んだとか?彼女の頭の中でのシミュレーションは次第に妄想の深みへとハマっていく。
まるで出口のない迷路にハマってしまったような感覚に襲われて、どう考えても最善の答えが見つからなくなったいつきは、一度その考えをリセットする事にした。
それで今度は今自分に出来る事をしようと言う決断を下す。
そうしておもむろにポケットからスマホを取り出した。電話で連絡を取ろうと言う作戦だ。それかネットでこの状況からの脱出方法を検索してもいい、とにかく外部との接触を試みる。
「嘘?圏外?なんで?」
スマホの液晶画面を見た彼女はこの状況に驚愕する。街中で電波状態が圏外になるなんて事は普通有り得ない。そのあり得ない状況が今起こっていた。
しかし考えてみれば、謎空間に迷い込んだ時点で電波が届かない状況になっていてもそれは不自然でもなんでもない。この現実を目にしたいつきは落胆し、力なくだらんと手を下ろして染まり始めていた空を見上げる。
「どーしてこうなっちゃったのよ……ああ、空が飛べたらなぁ……」
この見上げた空にも彼女は違和感を感じる。普通見渡せばどこかに必ずいるはずの鳥がどれだけ念入りに見回しても1羽も見当たらないのだ。まるで時間が止まったみたいに浮かんでいる雲も全く動く気配を見せなかった。
そんな空をずっと見上げていても仕方がないので、今度は何かこの謎空間のヒントが見つからないかと、いつきはあてもなく道を歩き始めた。ここに導いた存在はただ迷わせたいのではなくて、何かを伝えようとここに導いたのだ、そうに違いないと自分に言い聞かせながら――。
「あれ?」
ずんずんと道を歩いていると、彼女の視界に見慣れた影が見えた気がした。この謎空間に入って初めての動く存在にいつきは興味を抱く。
「べるの?」
そう、その影は彼女もよく知っている羽猫のように見えた。声に反応したのか、その影は急に走り出す。見失ってはまた振り出しに戻ると感じたいつきは、走り出した影を追って自分も走り出した。
「ちょ、待って!」
駆けていく影を追いながら彼女は今まで通った事のない道に迷い込んでいく。ぐるぐると縦横無尽に走っていく影に追いつこうと必死になっていたいつきは、自分が今どこを走っているのかすら全く気にしなくなっていた。
散々走ってようやく影に追いついたと思ったら、そこはどこかのマンション駐車場のような所だった。よく見ると、追いかけていた影のようなものがそこには沢山集まっている。この状況を目にした彼女はそれが何かで見た光景に似ていると感じ、思わずつぶやく。
「えぇ?黒猫の集会所?」
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