第47話 忍者再び その8

 無邪気そうなその寝顔を見ていると、もう危険な要素はどこにも残っていないといつきは感じたのだった。

 安全が確認出来たところでヨウはガルガルにかけた呪縛を解く。やがて目が覚めた彼はあたりをキョロキョロと見回して不思議な顔をしていた。

 どうやら操られていた頃の記憶を全然持っていないらしい。すぐに長に事件の詳細を聞いたガルガルは驚いてすっかり萎縮していた。


「すまなかった……俺はどうかしていたんだ……」


「もう悪さをしないならそれでいいだ。報酬も貰ったしな」


 さっきまでの態度が嘘みたいにガルガルはヨウに向かって謝っていた。そんな彼を快く許すヨウもまた懐が広いと言うべきだろう。


「お前にも迷惑をかけたな」


「ふっ、気にすんなだべ」


 2人の間には奇妙な友情のようなものが芽生えているようにも見えた。男同士は拳を交える事で理解し合う、それは人と妖怪の間にも成立するのだ、多分。

 そんな2人をぼうっと眺めていたいつきは唐突に何かを思い出した様に声を上げる。


「あっ!」


「どうしただ?」


 その声にヨウが驚いて振り返った。いつきはすぐにニコニコ笑っている長に声をかける。


「長さん、さっきのでどうしてたぬ吉を救ってあげられなかったの?」


「あの頃、儂は忌みの期間での……ずっとこもっていたんで外に出られなかったのじゃよ」


 いつきの質問に対し、長はそう言って髭を触る。ちゃんと理由があったと言う事で彼女も自分の中に生まれた疑問を無理やり納得させていた。


「そ、そうなんですか」


「いつき、意味分かってないだろ……」


「てへへ……」


 苦笑いするいつきの顔を見たヴェルノは鋭い一言で彼女の心を抉る。図星を突かれたいつきは笑って誤魔化すしかなかった。


 そんな訳で事件も無事解決し、ここにいる理由もなくなったので、いつき達は山を降りる事になった。


「いつき殿、帰るべよ」


「あ、うん」


「長老さん、それじゃあ」


 帰り際、いつきが長に挨拶すると彼はにっこりと笑って彼女に別れの挨拶を告げる。


「お嬢さんは仲間の命の恩人じゃ、いつでも遊びに来てくだされ」


「はい、いつかまた」


 それから長とガルガルも山の奥へと消えていく。邪気の消えたガルガルは何度もいつき達にお礼を言ってケンガを連れてすうっといつき達の前から姿を消していった。その消え方がまさに妖怪と言った感じでそれを目の当たりにしたいつきは素直に感動する。


 そうそう、彼女の一撃で撃墜されたケンガ、実は受けたダメージはそれ程でもなく、撃墜されて1時間程して復活していたらしい。それで慌ててガルガルのもとに行ったらすでに長の喝を受けた後で、怖くなった彼はしばらく近くで身を潜めていたんだとか。行動が可愛いよね。


「しかし今回は本当に助かっただ。借りが出来てしまったべな」


「じゃあ、いつか私がピンチになった時はちゃんとその借りを返してね」


「分かっただ。今日の事はずっと忘れないべよ!」


 別れ際、ヨウはいつきに今日のお礼を言った。その代わりとして困った時には助けてくれるようしっかり話を取り付ける。

 そしていつきは目的が達成出来たと満足な顔をして彼と別れたのだった。


 駅前はもうすっかりと時間が過ぎて空は夕暮れに赤く染まっていた。



「ふむ。どうやら彼女の力が増したようじゃな」


 その頃、彼女を見守るまた別の影があった。影は独り言のように言葉を続ける。


「そろそろ頃合いかのう……」


 その言葉から察するにその影は今まではこっそりいつきを見守っていたけれど、彼女が力を増したと言う事で近々何かをしようとしているみたいだった。

 いつきが魔法少女になった事で次々と今までになかった変化が訪れていく。それはまるで悪戯な神様が彼女の運命を弄ぶかのように……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る