第13話 いにしえの侍 その3
・ある大きな戦が始まり時政達が戦っていると、突然その場の空間が歪み異次元に通じる穴が開いた。
・その場にいた者全員がその次元の穴に吸い込まれてしまった。
・異次元世界は常識の通じない世界、気がつけば一緒に吸い込まれた敵も仲間もどんどん消えてしまっていた。
・自分もまた何度も次元の穴から違う時代の違う場所に押し出されていた。
・そうして現在に至る。
「それじゃあ時政さんは何度も次元の裂け目から押し出されてはまた吸い込まれてるって言う事?」
「ご名答!そう言う事なのでござる。いつ追い出されるか、追い出された時代はどこなのか、そしていつまた吸い込まれるか。私には全くどうにもならんのでござるよ」
ここまでの話を聞いていつきは彼がとても気の毒に思えた。勝手に出し入れするこの異次元の穴に自分の人生を翻弄されるなんて…。
けれど、同じ話を聞いていてもヴェルノの反応は彼女とは全く違うものだった。
「それだけじゃないだろ。お前は次元跳躍の力をすでにその身に宿している」
「べるの、それって……」
「こいつは自分で次元跳躍が出来るって事。多分長年この異次元の中にいて体がそう言う体質になってしまったんだ。制御は出来ないみたいだけど」
「流石、魔法生物殿は鋭い……その通りでござる。この力、全く我が物に出来てはござらんのだ……そのせいでお二方に多大なる迷惑を」
ヴェルノの推理によれば、時政が異次元の世界から追い出されるのも、また吸い込まれるのも彼の制御出来ない能力のせいだと言う事らしい。
そしてその指摘を受けた彼もその答えをまた認めていた。自分のせいでこんな事になってしまったと、時政はうなだれた。
「でも故意じゃないんでしょ、だったらそんなに謝らなくていいよ!それよりここから脱出する方法を考えよう!」
「いつき殿……実に懐がお深い!拙者、感動の極みでござる……うう……」
こんな事態になってもその原因である時政を責めずに飽くまでも前向きないつきの言葉に、彼は感動の涙を流した。
そんな時政に対していつきは苦笑いをしながら話を進めようとする。
「泣くのはいいからここからの脱出方法を」
「しばし待たれよ!このままだといつき殿の住む時間に戻れないでござるよ」
時政は急に思い出したみたいに戻るための問題点を大声で叫んだ。このまま異次元を脱出出来てもそれが元の時代でなければ意味がない。
この話を聞いたいつきは彼に質問する。
「それはどうにもならないの?」
「残念ながら……」
時政の失望した顔と返事の声の調子を聞いて、これは彼の力だけではどうしようもない事なのだといつきは察した。
しかしそれだけで方法が全て否定されたと言う事にはならない。なぜならここには一緒に吸い込まれた未知の存在、魔法生物がいるのだから。
「べるの!何か協力出来ない?ほらその、魔法で」
「やってみる?」
このヴェルノの言葉を受けて自分に何が出来るか分からなかったものの、いつきはとりあえず変身した。変身した彼女はまず元に世界に戻るように強く心に念じてみたものの、その効果は何も表れなかった。
魔法少女の魔法力は魔法少女にした魔法生物の能力に左右される。どうやらヴェルノにそこまでの魔法は使えないらしい。
魔法少女になったこの状態ですらいつきは何も出来ずにただ沈黙だけが流れていった。
「それで、何が出来るのでござるか?」
「え?えーと……」
時政には彼女が強く念じた事は分からない。声に出してはいなかったから周りからはただ彼女が目をつぶっていた事しか認識出来ていなかった。
いつきが何も出来ずに困っているのを見かねてヴェルノは助け舟を出した。
「仕方ないな……いつき、そいつの肩に手を当てて」
「あ、うん」
どうしていいか分からなかったいつきはヴェルノの言葉に素直に従う。時政の肩にぽんとさり気なく手を置いた彼女は次の指示を仰いだ。
「それで?どうすればいいの?」
「力が調整出来ていないのは流れで分かると思うんだけど、それが正しく流れるようにイメージするんだ」
「えっと、えっと……」
ヴェルノの言葉を理解しつつ、いつきはどうにかそれを実行に移そうとする。
しかしそのやり方をうまくイメージ出来ない為、中々彼女の思い通りにはいかなかった。
「焦らなくていい、時間はたっぷりある。むしろここには時間の概念がない」
「ヴェルノ殿は異次元に関しても造詣が深いのでござるか?」
「僕も似たような方法を使って人間界に来たからね」
「なるほど、よく分からんがとても心強いでござる」
いつきがイメージを掴むのに苦戦する中、ヴェルノと時政はのんきに異次元談義に花を咲かせていた。
いつきはと言えば、何度も試す内に段々と時政の体に流れる不自然で不安定なエネルギーの流れを掴めるようになって来ていた。
「あ、何か感覚は掴めて来た気がする。これをどうするんだっけ?」
「感覚が繋がったら次はイメージするんだ。その力が正しく流れている状態を。そうすればそのイメージがフィードバックされていくはずだ」
「えっと、イメージね……イメージ、イメージ」
「しっかり繋がれていれば、乱れていた流れが収まる所に収まる感覚が手応えとして掴めるはずだよ」
ヴェルノの丁寧なレクチャーを受けていつきは言われた通りにイメージを整えていく。やがてその感覚は彼女の手から時政の体に伝わっていく。
彼の体を流れるエネルギーはいつきの魔法力によって少しずつ修正されていき、やがては全て彼女のイメージの通りとなった。
この処置を受けていた当の本人も、自分の中に流れるものが正しい流れに収束した事をその身を持って実感していた。
「おお、何でござるか!今まで感じていた違和感が少しずつ治まってくるのを感じるでござる!」
「流れが完全に調整出来たと思ったらもう手を離していい。それでいつきの役目は終わりだ」
ヴェルノのこの言葉を受け、いつきは時政の肩に置いていた手を離した。力の流れが正常になった彼はぐるんぐるん腕を回して、自分の力の調子を整えながら彼女にお礼を言った。
「いつき殿、かたじけない。貴女のお陰で某、力の使い方が感覚で分かるようになったでござる」
「それじゃあ時政、僕らを僕らの時代に戻して、きっと出来るから」
「承知つかまつった!いざ!」
ヴェルノのこの言葉を受けて、時政はおもむろに両手を前方に突き出した。どうやらそれが次元跳躍の力を使う時の動作らしい。
やがて周りの異次元空間が小刻みに震え始める。その感覚は言葉ではちょっと表現の難しいものだった。
体が時空間の波に影響されて普通ではあり得ない振動をする。存在が引き剥がされるようでその後無理やり戻されるようで――要するにものすごく気持ち悪い感覚に全員が襲われていた。
「うわ、何これ……超気持ち悪い……」
「急激な時空間移動は通常状態じゃないから仕方ないんだ、我慢して……」
「そう言うべるのも頭押さえてるんじゃないのー」
「僕だって、まだ慣れるほど経験はしていないんだ……っ」
「皆さん、もう少しの辛抱でござる、しばし耐えて欲しいでござるよ」
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