第14話 いにしえの侍 その4
やがていつきの部屋にまた同じ様に次元の穴が開いた。そこからぽいぽいぽいっと吐き出すように3人は押し出された。3人は部屋の床に折り重なるように次々と倒れ込んでいく。
着地こそみんな無様な格好になったものの、いつき達は見事に元の世界に帰る事が出来た。
しばらくして落ち着いた後に時政は立ち上がってヴェルノに質問する。
「それで、某はこの力を見事会得したと言う事になるのでござろうか?」
「多分ね。体が感覚を覚えたならもうその力を自由に使えるはずだよ」
このヴェルノの言葉を聞いて彼は納得した顔をすると片手を上げて次元の穴を開いた。この人、会得したとは言え力を使いこなすの早過ぎィ!
早速その穴に入って帰ろうとする彼にいつきは声をかける。
「時政さんはこれからどうするの?」
「某は元の戦国の世に戻ろうと思うでござる。それがきっと正しい道でござろう」
「そっか、気をつけてね」
時政の言葉を聞いていつきは納得したようににっこり笑う。
今回、彼女に助けられてばかりだった彼は今度何かあれば助けに来ると彼女に誓うのだった。
「こちらこそ、大変世話になり申した。この御恩は一生忘れぬでござる。何事かあれば必ず参上いたしますぞ!」
「いいよいいよ、それにどうせ連絡方法もないじゃない」
「いえ、今回某は次元共有感覚を会得しました故、これでどこにいてもいつき殿の危険を察知する事が出来るようになったでござる。ですから、助けが欲しい時はいつでも私めの名前をお呼びくだされば」
言っている原理はよく分からないものの、困った時に助けを呼べは時政はいつでもどこでもいつきを助けに現れるらしい。
この言葉を聞いて早速ヴェルノはニヤニヤ笑いながらいつきをからかった。
「おお、良かったじゃん。何かあったら助けてくれるってさ」
「そっか……分かった、じゃあその気持ちだけ受け取っとっておくね」
「では、さらばでござる」
「うん、元気でね!」
伝えたい言葉を全て伝え終わると時政は自らが作った次元の穴に入っていった。きっと元に時代に戻っていったのだろう。全てが丸く治まっていつき達は取り敢えず一息ついた。
しかし間髪入れずにいつきの母が痺れを切らして部屋に入って来た。
「こらー!早くにご飯食べてもこんなに遅くなったらダメじゃないの!」
そう、次元の穴に吸い込まれた騒動が解決した時、既に彼女達が本来出かける時間を少し過ぎていたのだ。いつきはその時間になるまで決して遊んでいた訳ではない事を手を激しく動かしながら必死に母に訴えた。
「いや、それどころじゃなかったんだよー!」
「あれ?お侍さんは?」
いつきの母がそう言いながらこの部屋にいるはずの時政の姿を探している。何も知らない母に詳しい説明をしても仕方がないと思ったいつきは簡単に事の顛末を説明した。
「うん、体調が戻ったみたいで元の時代に帰っちゃった」
「そ、そうなんだ……よく分からないけどめでたしめでたしなんだね」
「そうだよ、じゃあ急いで出かける準備するね」
空気を読める自分の母に感謝しつつ、いつきは出かける準備を整え始める。
時政問題も解決してまた彼女にいつもの日常が戻って来ていた。
「なんだありゃあ……いきなり何もない所から出て来たぞ……やっぱりあいつ、危険因子かぁ?」
その様子を遠くから眺めているひとつの影があった。彼は事の一部始終をその場所から眺めていたらしい。
いつきを観察しているらしいこの人物の正体は一体何者なのだろうか?
それはそうと、のぞきは悪質な犯罪行為です!良い子は真似しちゃダメだぞ!
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