第3話 魔法少女の誕生 後編
(な、何これ……うわ!超気持ちいい!)
それは時間にして数秒だっただろうか――それとも数十秒――本当はほんの一瞬だったのかも知れない。
とにかくその僅かな時間の間、いつきはとてつもない快楽を感じていた。それは初めて知る強烈な感覚だった。
自分の体に流れていく魔法をその身で味わいながら何だか彼女は知ってはいけない刺激を知ってしまった気がしていた。
「はい、終わったよ。もうこれでいつきは魔法少女になった」
ヴェルノの魔法が終わっても、いつきはしばらくぽーっとしていた。この時、何かを考える余裕なんてなかった。それだけ強烈な体験だった。
頭の中が真っ白で体が宙に浮かんでいる感じ。やがてその快楽も時間と共に徐々に収束していった。
「これで君はもう魔法を使える魔法少女になれたはず。でもひとつ注意してね。変身出来るのは僕が側にいる時だけだから」
「えっ?」
「この世界は僕がいた魔界じゃない。最初から魔法の才能があるならともかく、この世界で僕の世界の魔法を使うには、魔法世界の住人である僕が側にいないといけないんだ。僕が側にいる事で僕の周りだけ魔界と同じ状態になるんだよ。その状況で初めて君は魔法少女になれるんだ」
「その範囲って?」
「僕の体調にもよるけど大体半径100mくらいじゃないかな?僕から離れると魔法は解けちゃうからね」
「そ、そうなんだ」
ヴェルノのこの説明、いつきには分かったような分からないようなそんな感じだった。ただ、魔法少女になるには彼が側にいないといけないと言う事だけは何とか理解出来ていた。
「それじゃあ変身してみて。多分問題なく出来ると思う」
「えーと……どうやったら出来るの?」
「魔法の力は願いの力。なりたい姿を強く願うんだ。想いの力が魔法になって具現化する」
「えぇ……つまりどう言う事?もっと分かりやすく説明してよ」
この時ヴェルノは思った。これ以上簡単に説明なんて出来ないと。目の前の少女はもしかしたら理解力が残念な人なのかも知れないと。
ただ、ここは自分が元いた世界とは違う訳で、だからもっと幼い子供に教えるように話せば分かってくれるのではないかと思い直した。
「うーん、何て言ったらいいのかな。こうなりたいって思えば頭に色々浮かんでくるからそのイメージに従えばいいよ」
「つまり、特に覚えなきゃいけない儀式的なものはないって事ね?」
「こっちの世界の魔法はそうなのかも知れないけど、僕のいた世界の魔法はもっと簡単なものなんだ。向こうじゃ誰でも魔法が使えるからね」
「分かった!やってみる!」
いつきはヴェルノの言葉通りに魔法少女になりたいと強く願った。魔法が流れる感覚を知ってしまった以上これは紛れもない現実だ。
物事を強く信じると言う事は、時として奇跡を呼び起こす。更に今のいつきはヴェルノに魔法をかけられている。
想いの力は加速して、やがてそれは彼女に不思議な力を与えていた。具体的なイメージが次々に彼女に閃きと言う形でダウンロードされていく。
「マジカル★ミラクル♪へんしーん♡」
それは彼女が魔法少女になった時に使おうと思っていたフレーズだ。感極まったいつきは無意識の内にその言葉を口にしていた。
そしてその瞬間、彼女の身体は謎の光に包まれる。その光は彼女の身体にまとわりついて彼女の妄想を具現化していった。
光が魔法少女の衣装に具現化されていく間、いつきはまたしてもものすごい快楽に包まれていた。どうやら身体を魔法が流れる度にこの快楽を味わう仕組みになっているらしい。
「良かったね、成功だよ」
変身し終わった彼女を見てヴェルノは満足そうにニッコリ笑ってそう言った。
いつきの方は初めての変身で、しかもその時に味わった快楽のせいで、しばらくの間また意識が飛んでいた。
30秒ほどして意識が戻ったいつきはすぐに鏡を探す。変身した自分の姿を確認するために。
「おおお……まさに理想通りの姿……」
鏡を見つけてしっかり自分の姿を映すいつき。そこにはフリフリ衣装を着たいかにも魔法少女っぽい自分が映し出されていた。
幼い頃から憧れて妄想していた自分のなりたい魔法少女の姿がそこにはあった。
「べるのすごいよ!私本当に魔法少女になっちゃった!」
「だから"ヴェ"ルノだってば……」
ヴェルノは一向に自分の名前を正しく呼ばない彼女に閉口していた。その時、不意に部屋のドアが開けられる。
「母さんがご飯だって呼んでる……ぞ」
そう、それはいつきの父親だった。夕食の呼びかけに応じなかった為、直接呼びに来たのだ。彼はノックせずにドアを急に開ける癖があった。
ドアを開けた瞬間に目に飛び込んで来た自分の娘の魔法少女姿を見て、父親は固まってしまった。
「お、お父さん……?」
いきなり父親に魔法少女姿を見られたいつきもまた固まっていた。これは恥ずかしィィ!
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