マキナと地下図書室のはなし



「ここにある本って、好きに読んでいいの?」


 ざらざら、つるつる、ぼそぼそ、かさかさ。薄いのと分厚いの。背の高いのに低いの。

 吹き抜け二階部分の回廊を歩きながら、居並ぶ本の背表紙を撫でてまわる。


「いいけど、読めるの?」

「まあ、大抵は……」


 なにをおいてもまず先に、その国の言葉を理解すること。サリタの教えは徹底していた。品書きが読めなければご飯抜きだったのだから、そりゃ必死にもなる。


「読めないのがあったら言いなさい」

「うん」


 哲学、歴史、産業、科学、魔術……綺麗に分類された棚を目でなぞっていく。

 文学の奥の棚に行き着いたところで、マキナの歩幅は徐々に小さくなり、やがて完全に足が止まった。


「……………………」


 やめよう。この先は危険だ。


「なぁに? なんか読めないのでもあったぁ?」


 顔を見なくてもわかるにやついた声で、師匠が背後からのしかかってくる。大きい。じゃ、なくて。


「……なんで、こんな、本まで」

「文明の発達はエロスと共にあり、でしょ」


 あらゆるニッチな性癖から異性同性異種間なんでも揃ってるけど、どれに興味ある? と楽しそうに尋ねてくる。違う、そんな解説は求めていない。


「歴史上の人物や、現役のお偉いさんが匿名で書いてる貴重な本もあるわよ。子孫が知ったら戦争をしかけてくるでしょうね」


 こんな魔女に性癖を握られるなんてかわいそうに。マキナは心底同情した。


「……あれ?」


 ふと思い出す。確かここの本の分類管理をしているのって、リーゼだったような。

 ということは、もしかしてリーゼもここにある本を——


「……………………」


 深く考えるのはやめよう。危険だ。本当に危険だ。


「そんなに顔真っ赤にしちゃって、大丈夫?」

「うるさい、平気だ」

「わたしのおすすめはこの——」

「いいから! さっさと離れろこのエロ魔女!」




 近頃マキナさんが目を合わせてくれないと、リーゼが魔女に相談しに行ったのはまた別のおはなし。

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