スーと館のおばけのはなし
魔女の館には、こわいこわいおばけが住んでいる。アンダートンの子供なら誰もが一度は大人に聞かされるお話だ。
スーはもうおばけなんてこわがる年じゃない。それでも施薬院と館の境を守る見張り番をずっと続けているのは、下の子たちがおびえて夜眠れなくなると大変だから。
朝起きてすぐと夕飯の前には必ず掃除用の箒を持って、館のほうをひと睨み。道の両脇にある森は、スーが仕掛けた音のトラップが張り巡らされている。
これで安心、館のおばけはスーにおまかせ。そういう役割を演じることで、下の子たちが無闇におばけをこわがって院長先生やリーゼの手を焼かせることもなくなるってわけ。
空き缶で作った音のトラップが鳴ると、スーはすぐさま飛んで行っておばけが掛かってないかを確認する。大抵は狐だったり兎だったりするのだけれど、「だいじょうぶ、森の動物だったわ」と報告するたび、どこか自分ががっかりしてることに気づいていた。
だって、おばけってどんな姿してるのか、ちょっとだけ見てみたくない?
こわいこわいと大人たちは口を揃えて言うけれど、皆が皆、同じくらいにこわいものって実際あるのかしら? ジミーが兎を怖がるのは昔大きな兎に噛まれたからだし、ケイは大きな声で話す市のおばさんが苦手でびくびくしてる。でもスーはどっちも平気、全然こわくない。
おばけの姿を教えてくれる人はいないし、おばけがどんな悪いことをしたのか語ろうとする人もいない。なのにどうして大人たちはあんなにおばけはこわいぞと子供を脅しつけるのかしら?
いつものように庭の木の上でそんな考えに耽っていると、カランカランと缶の鳴る音がまた聞こえてきた。
ほらきた、狐でも兎でもかかってきなさい。このスーが正体を暴いてやるわ。
箒を担いで下生えを踏みながら進むと、木の枝が作る編み目状の影の向こう、人の形によく似た黒い塊が蠢いているのが見えた。足下で鳴る缶に戸惑うように体を揺らしている。
心臓が胃のほうに滑り落ちそうになるのをこらえながら、スーは施薬院の裏口ドアに駆け込んで素早く鍵を閉めた。
レースのカーテンをそっとめくって、ドアの小窓から外を確認する。黒い影はもうどこにも見えなくなっていた。
でも、どうしよう。
スーはとんでもないことを知ってしまったのかも。
まさかおばけが本当にいるなんて、どうして大人たちはちっとも教えてくれなかったのかしら!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます