とおいとおいむかしのはなし



「そして魔女の姉妹たちは、この低き国に留まることを決めました。

 獣たちの国で、獣たちに分け入って暮らすことにしたのです。

 ただひとり、こわがりな末っ子だけを除いては……」



 小さな寝息に気づいたリーゼは、ページをめくる手を止めてネリーの頭をそっと撫でた。

 薔薇の花びらを押した栞は今日も全然進まなかった。施薬院で世話している子供たちの中でも、末っ子のネリーは特に甘えん坊だ。他の子を寝かしつけてから付きっきりで本を読んでやらないとなかなかベッドに入ってくれない。そのくせ数ページ聞かせただけですぐ眠りの国に落ちてしまうのだから。


「おやすみなさい、こまったさん」


 ランタンの灯を落とす。今夜の月は大きいから、歩くだけなら不自由ない。

 そっと窓から外を伺うと、館の窓がひとつ煌々と明るくなっているのが見えた。


「贅沢な……」


 思わず呻き声が出た。またヴァージニアがお酒か本に淫しているに違いない。夜更かしはロウソクの無駄だからと何度お説教しても「だってわたし魔女だもの、夜行性なのが普通だしぃ」とどこ吹く風だ。

 確かに昼間から飲んだくれるのは問題あるにせよ、朝に館を訪れたリーゼが酒瓶か本の山からヴァージニアを発掘して始まる一日はおかしいと思う。

 あと単にあの態度が腹立つ。

 またちゃんと言い聞かせよう。なんならおやつも抜きにしてやるんだから。

 これでもう何度目かわからない決意を固める。でも結局、泣きつく彼女に折れてまた一緒にお茶を飲むのだろうな。

 ネリーの名誉のために訂正しなくては。ここらで一番の甘えん坊は、あの館の魔女に決まっている。


「ふぁ……」


 明日も変わらない一日を迎えるために、今日のリーゼはさっさと休むことにした。

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