油断は禁物
ハヤトはやっと酔い潰れてくれたようで、ソファに倒れ込み寝息をたてている。
さっそく作戦にうつりたいところだが、アオイ自身も結構な量を飲んでいて若干手に力が入らない。
今ここで起きて抵抗されたら勝てる自信がない、そう考えアオイはクローゼットから1つ袋を取り出した。
思いがけずジャラとチェーンの音が響き一瞬ヒヤリとするがハヤトが起きる気配はない。
まずはチェーンからT字状につながっているもう一つのチェーンをソファの足にひっかけ固定し、あとは両側についた革製のベルトをハヤトの両腕に装着すれば完璧な拘束ができあがり───。
「へぇ、そういう趣味あんだ?」
「え?! うわぁッ!」
今まさに手首にベルトを着けようとした時に突如声が聞こえ、一瞬の間にアオイの身体は見事に反転した。
見慣れた我が家の天井が見える。
「このチェーン、こうやると早く着けられるぜ」
「な、なんで?!」
なんで目が覚めてんの?
なんで酔ってないの?
なんでオレの方が拘束されてんの?
いろいろ言いたいことはあるのに、自分の手首にしっかりと装着された手枷と自分の上にまたがるハヤトの顔を交互に見ることしかできなかった。
「なんでって、おれザルなの」
「酔ったフリ?!」
「そゆこと」
(マズい。なんとか誤摩化さないと。でも手枷はめるとこを目撃されて上手く誤摩化せるのか……?)
とりあえず怒りだす前に酒の席の冗談で済ませようと決めた。
「気持ちよく酔い潰れてたから、ちょっとしたイタズラ心だったんだ。悪かったよ。気を取り直してもう一回飲み直さない? な?」
「ふーん。おれを酔い潰そうとしてたように見えたけど」
(バレてる……)
どの辺りからバレてたのかも気になったが、とにかくこの状況から抜け出すことが先決だ。
(この窮地を脱したあと、兄貴と別の作戦を考えよう)
アオイはこの状況の中で冷静な思考を取り戻せたことを自分で褒めたくなった。
でも、そこまで判っていたのに何故あえて酔い潰れたふりをしたのか疑問が浮かんだ。
「おれ的には別に、酔った勢いに任せようとしなくてもいつでもウェルカムなのに」
「え?」
「まぁ確かに男同士だし? 妹の彼氏だし? 面と向かって、っていうのは恥ずかしいよな」
ハヤトは、わかっているとでも言いたげにウンウンとうなづいている。
「は?」
「でもアンタの気持ちもハッキリ判ったから、フリした甲斐があったな」
アオイはハヤトが何を言いたいのか、いまいち理解できない。
「えっと……なんのこと言ってんの?」
「もう隠さなくていいって。初めてカフェに来た時にずっとおれのこと見てたの知ってるし」
「いやそれは、」
ヒナタの彼氏に相応しいか見てたのであって。
それにあの時はキョウスケだってハヤトを見ていた。
「今日だって実はおれのこと待ち伏せしてただろ?」
「……それは、」
確かに待ち伏せしたけど、あくまで作戦のためだ。
「おれのこと気になってるってバレバレだって」
「はぁッ!!?」
(待て待て待て待て!)
完全なる勘違いだと弁解しようにも、ハヤトは得意気に話し続け割って入る隙もない。
「おれ女しか興味ないけど、アンタ超可愛いから1回くらいヤッてもいいし。一緒に楽しもうぜ」
「ちょ、」
「ヒナちゃんには内緒な? おれとアンタがこういう関係になってるって」
そのセリフどっかで聞いたことあるなっていうのと、オレだって男に興味ねーよという叫びは置いといて、アオイが先ほどよりピンチに陥っているのは確かだった。
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