作戦決行
《───夕方からは本降りとなるため、忘れずに傘を持ってお出かけください。以上、お天気でした。続いてのニュースは───》
やや雲行きが怪しい朝。
朝食が並んだテーブルの定位置にキョウスケが腰を下ろすと、スクランブルエッグがのったお皿を置きながらアオイも自分の席に着いた。
「ヒナタは?」
「さっき出たよ。この週末は美術部の先輩んちに泊まりに行くんだって」
「男か?」
「そんな凄まないでよ、女の人だってば。その先輩が卒業したあとも絵とか進路の相談に乗ってもらってるって言ってた」
ヒナタのことになると人が変わるキョウスケを見て、この人の思考は妹で占められているのだとアオイはつくづく実感する。
父親が死んだあの時からずっと。
(ヒナに対する愛情の大きさはオレだって同じだ)
ただ、その愛情と執着の100分の1だけでも弟である自分に向いたってバチはあたらないのではと思う時がある。
すぐに、そんなことある訳ないと思い直しアオイから苦笑いがこぼれた。
「俺も今日は会社に泊まることになりそうだ」
「そんなに忙しいの?」
「ああ」
脳裏に仕事の山が浮かんで見えているのか、キョウスケの眉間には深い皺が刻まれている。
「オレも今日、実行しようかと思ってる」
そう言ったアオイからは本人も気が付かないくらいの小さな溜め息が漏れた。
「……気が乗らないのか?」
「え? あ、いや、気が乗らないわけじゃないんだ。ただちょっとなんかこうモヤモヤするだけ」
「?」
「ん~何がどうモヤモヤするのかは判んないんだけどさ。ま、今日は上手いことやるから心配しないでよ」
◇◆◇◆
どしゃぶりの雨をよそに、作戦の滑り出しは順調だった。
今回のターゲットであるハヤトのシフト状況はリサーチ済みで、さも偶然を装って出会いそして飲みに誘う。
「いつも妹がお世話になってるから奢るよ」なんて言えば、二つ返事でOKだった。
酒の強さには自信があるアオイの作戦としては、酔い潰してコトに及ぶという方法。
よくありそうな手口だが、こういったベーシックな方法こそが効果的だと考えている。
男性それも彼女の兄に辱められたとあっては、さすがに成人男子としては彼女との付き合いを続けていくのは難しいだろう。
今回はそこを狙う事にした。
「ハヤト君、大丈夫?」
「ん~、大丈夫~」
「ホラちゃんと歩いて! ウチで飲み直すんだろ!」
「おーう!」
酔っぱらいに肩を貸すことほど無駄に体力を消耗するものはない。この雨の中では尚更だ。
そのうえ酔わせるのに時間がかかり、アオイ本人も予定より酒を飲んでいるため2人して足もとがおぼつかない。
先ほどのバーでもそうだったが、自宅に着いて再び酒を酌み交わすまでずっとハヤトはヒナタの可愛さについて熱く語っていた。
しかし、その熱い想いがヒナタを幸せにできるとはどうしても思えなかった。
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