ディメンション×ソード
草餅
第1話「再会」
雲1つない快晴の朝、一人の少年が大きな門の前に立っていた。
不意に少年のポケットに入れていた携帯が震え出し、おもむろに携帯に出る。
「大丈夫だって叔母さん。もう着いたし、忘れ物もないから。人が多くなってきたし、もう切るよ。うん、ありがとう」
3分ほど会話した後もなお心配でたまらなそうだった叔母さんとの電話を終わらせると、少年は再び大きな門とその門よりもはるかに大きい校舎を見上げ、手の平に後が残るほど強く拳を握り締める。
「東京騎士学校――ここに昔兄貴も……」
少年はどうしてもここに来なければいけなかった。
騎士になるために。大切な人との約束を果たすために。
少年は、日本にも4箇所しか設置されてない騎士学校の内の1つ、東京騎士学校に来ていた。
この日のために少年は猛勉強し、入試の筆記試験と騎士適性診断を受け合格し、なんとか入学を許されたのだ。
それに電車を降り、少し迷いそうになりながらも、東京騎士学校の校門までなんとか一人でたどり着くこともできた。ひとまず安心といったところである。
校門をくぐり、入学式の会場である体育館を目指し歩く。
「あれ、
先ほどまで叔母さんからの電話を受けていた少年”夾也”は、自分の名を呼んだ声の持ち主の方へと振り返った。少し低くなったものの、この声には聞き覚えがあった。懐かしい声だ。
「
「ようよう、久しぶりだな! たしか最後に会ったのが10歳の時だから、5年ぶりくらいか。身長伸びたな」
「そりゃ五年もあれば変わるよ。それに前は同じくらいだったのに、義朝のほうが伸びたんじゃないか?」
「かもな。おまえもいろいろあったから心配してたんだぜ、あの事件のあとすぐに転校しちまうし」
「あの事件……うっ」
夾也の脳裏に朝の夢が一瞬フラッシュバックし、見たくない記憶のかけらが脳裏を走る。
久しぶりに見たあの夢、それは夾也にとっては思い出すには辛すぎる事件の断片を映したようなモノで。
「大丈夫か?」
夾也は必死に心を落ち着かせる。
「ああ……もう大丈夫」
「それならいいんだが……ところでさ、棗(なつめ)にあったか? あいつもこの学校に入ったみたいだぜ。さっき偶然校門近くで見かけてよ、声かけようとしたが急いでどっかいっちまった」
「棗も来てるのか。まあ来てるんじゃないかとはうすうす思ってはいたが」
しかし夾也は正直ここで棗に会いたくなかった。棗は昔から文武両道の正義感が強い女の子だった。そんな完璧だった棗に、今の悩んでる自分をを見られたくないと心のどこかで思っているからだ。見られたら絶対失望される、そんな考えが心にのしかかった。
「ところでさー夾也、おまえ何クラスに入ったんだ?」
「……下位クラスだよ」
東京騎士学校には学年毎にクラスが3つ設置されている、しかもそれは入試試験の点数や騎士適性診断で総合的に判断され、成績上位25名が上位クラス、26位から50位までが中位クラス、51位から100位までの成績下位者が下位クラスとなっている。クラスが高いほど高等な技術を学べたり、待遇が良かったりする。
「夾也なら上位クラスだと思ったんだけどな」
「そういう義朝はさ、何クラスなんだよ?」
「俺はお前と違って上位クラス……と言いたいところだが、奇遇なことに俺も下位クラスだ。試験は自信があったんだけどな。騎士適性診断で、ちょっとな」
騎士適正診断、それは心理テストのようなもので、騎士としてこれからもずっと自分の心を見失わずにいれるかというテストだ。
自分の心を見失い、その心が闇に囚われることは、騎士の
そして夾也もそのテストにある理由から引っかかりかけたことを今は告げない。
「ともかく下位なら、俺と一緒だな」
話の最中に、入学式がもうすぐ始まることを告げる予鈴が校舎になり響く。
さっきまで大勢いたはずの学生の姿もいつのまにかまばらになっていた。
「やべっ、入学式はじまっちまうぜ、夾也急ごうぜ」
「ああ、そうだな!」
夾也と義朝は急いで体育館に向かった。
体育館につくと、生徒がクラス毎に出席番号順に並んでいて、夾也と義朝はそれぞれの座るべき席に向かい椅子に座る。
前日緊張であまり眠れなかった夾也は、式が始まってすぐ眠りに落ちてしまう。眠りに落ちたまま式が終わるかと思ったが、意識が覚醒した。決して忘れはしない懐かしい声で。
「棗……」
凛とした声、他者には絶対に負けたくないという思いすら感じられる澄み切った声。その声は夾也の意識を覚醒させるには充分なものだった。夾也は小声で呟く。
「新入生代表って、あいつ1位かよ」
新入生代表の言葉を言い終え、長い茶髪をなびかせながら戻ってくる棗を夾也は見ていた。すると偶然棗と目が合う。棗は一瞬目を輝かせたように見えたが、そのあとすぐに夾也から目を背けた。
義朝は入学式が終わるとすぐに、なんの用事かはわからないが先生から呼び出されて職員室に行ったので、夾也は一人で下位クラスに向かう。黒板に貼られた座席表を確認して、夾也はとくに周りを見ずに席に座った。
つんつん。
「ん?」
夾也は背中をつつかれながら声をかけられたような気がしたが、気のせいだろうと考える。義朝が職員室に行き、棗が上位クラスな以上、この下位クラスには夾也の知り合いがいるはずはないのだから。とかなんとか現実逃避している間も夾也の背中をペンでつつかれ続けている気がする。
「ねえねえキミってば、聞こえてる? おーい、起きてますかー?」
今のは聞こえた。誰だ? と思い振り返ると。柔らかく膨らんだ黒色の髪を肩まで伸ばした少女が夾也を見ていた。一瞬誰だか分からなかったが……。
「あー! お前はさっきの、お前も騎士学校の生徒だったのか。そういえばたしかにこの学校の制服を着てたような気が……」
「お前じゃないよー、私には
夾也は今朝、一本早い電車に乗って東京騎士学校へ向かおうとしていた。
しかし電車に乗る直前、財布を落とす少女を見て急いで拾いに行き財布を拾い渡した。しかし渡した瞬間ドアが閉まり、少女は電車と共に消えて行き、夾也は一人ホームに取り残されることになったのだ。
そして、その時夾也が財布を拾ってあげたのが、この遠川由良だったようだ。
「遠川……由良か。ってお前が財布を落としたせいで、俺電車乗れなかったんだぞ」
「それはホントごめん!」
「まあ、いいよ……そもそも俺が勝手にやったことだしな」
入学式には間に合ったし、実はそんなに怒ってもいなかった。
電車が閉まるかもしれないと思った上で、拾ったのは自分のした選択だった。
「許してくれるんだ。財布も拾ってくれたし、優しいね」
「優しくない。これぐらい普通だ」
夾也の返しに、由良が笑う。
「なにそれっ、キミ変わってるね。あっ、そうだ私のことは由良って呼んでいいよ」
「えっ……じゃあ……由良……」
いきなり今日会ったばかりの女の子を呼び捨てにするのはなんか恥ずかしいなと夾也は思うが、この少女はそんなことは気にしてないらしい。
「ところでキミのことはなんて呼んだらいい?」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は夾也! 衛上(えがみ)夾也だよ」
「衛上、夾也……じゃあ夾くんって呼ぶね」
「……夾くん?」
初めてそんな呼び方をされ戸惑う夾也。
衛上くんとか、夾也くんとか呼ばれてると思っていただけに少し動揺した。
「嫌……かな?」
驚きこそしたものの、その呼ばれ方に悪い気はしないなと夾也は思った。
だから。
「いいよ、好きに呼んでくれ」
「じゃあこれで決まりね、夾くんよろしくね!」
「おう! よろしくな、由良!」
ちょうど夾也と由良の自己紹介が終わり友達のようになった頃、義朝が下位クラスに戻ってきて席に座るのが見えた。
夾也は義朝にも新しくできた友達の事を紹介しようと思ったが、そのすぐあとに教師と思わしき人がドスドスと教室に入ってきたの一旦諦める。
その教師、おそらく担任と思われる人物は体格が良くて片目を眼帯で覆ってて、いかにも強そうな感じを漂わせている。
「やあ下位クラスの諸君、入学おめでとう! と言いたいところだが、まだ君たち下位クラスの生徒全てが、この学校に本当の意味で入学できたわけではない。君たちには約一時間後に"試しの儀"を受けてもらい、"
下位クラスの生徒はどよめく。騎士になるために来た生徒も、次元刀の召喚の方法は知らない者が多いのだ。知らないというよりも一般には公開されていないから、知ることができなかったと言ったほうが正しいのかもしれないが。
そしてなおも担任の厳しい言葉は続く。
「なぜならば、妖魔を斬ることができる唯一の存在である次元刀を召喚できない者は、騎士になる資格なぞ一生ないからだ。そしてこれは余談だが、成績上位者である上位クラスや中位クラスでは"次元刀召喚失敗者"はほとんど出ないが、この下位クラスからは毎年10人ほどが召喚に失敗し退学していく。覚悟するように、以上だ」
楽しい入学式ムードは吹き飛び、下位クラスの生徒全員に緊張が走った。
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