選べる→異世界転生!
そっと目を瞑る。落ち着けば、これ以上怯えなくて済むし。
こちらに背を向けたままの女の子が何か囁くと、同時に紙の擦れる音が聞こえた。大雑把な気配だけで言ってしまえば、俺の方へ振り返った様。
「プクク」という印象的な笑いも聞こえるのだが……。人が死ぬのが楽しいとか、こいつは考えねえと思うんだよな。――じゃあなんで笑ってんだ?
固めた覚悟が弱かったらしく、すぐに目を開けた俺の目の前には、
『1.魔法使いに転生記~スライムだけは倒せない~』
『2.俺のひのき棒がエンチャント済みだった訳だが』
『3.【2】でダンジョンに臨む訳だが』
三枚の黄ばんだ紙が浮いていた。
「しゃあ、」
「少佐?」
「いや逆襲じゃ――こほん。さあ、選びたまえっ!」
いや、全然分かんない。俺と読者さん置いてけぼりだしさ。
って言うか、映画でもシャアは少佐だったよな!? 逆襲の少佐だよな!?
「……鈍い奴じゃにゃ、本当に死ぬか? 我ならその辺余裕じゃぞ」
「本当にって……お前、言ってる事がメチャクチャだぞ」
正論のつもりだったのだが、女の子はむくれながら脚を叩いてきた。
二度目にして気付いたのだが、むくれたこいつはかなり可愛い。
「そのまま死ぬ奴が我に会える訳にゃいじゃろーが! ったく、まだ分からぬか、タチの悪い冗談じゃったと!」
「ああ俺騙されて――――って、んぬぅ!?」
俺死なねえの!?
肩を揺すりながら事の真偽問うと、女の子はしてやったり顔で鼻を鳴らした。
覚悟は無駄に終わったけど、死なねえって事は――
「うむ、【転生】の権利があるにょじゃな」
「ありがてえッス!!」
俺はちっさい両手を握って、心からの礼を言葉に乗せた。
騙したこいつは最悪だけど、もう一回生きるチャンスをくれたのも、紛れもなく
状況をまとめると、こうなる。
何かの食中毒で死んじまった俺、
当たり前だが、記憶の消滅っての恐かった。恐いと思ったけど、もう一回生きられるんだし……泣く泣く了承したさ。このチビとの記憶は残るらしいからな。
しばらくはこいつが応援してくれる訳だし、良いスタートが切れそうだと思ったのも本音だ。
ちなみに、俺が死んだのは15歳。高校入学を間近に控えた春の事だ。そこそこ有名な公立校に受かって、浮かれてる真っ最中だったってワケ。
「で?」
「選ぶのじゃ」
「どれを?」
「我のおすすめは【1】じゃにゃ」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
そうと決まった今現在。いよいよ【転生】の最終ステップにいるのだが……。
「俺たたかうの?」
「おにゅしたたかうのじゃ」
いや、そんなにきっぱり言われてもなァ。
いまだ実感はないまま、三枚の紙切れに書かれた達筆な文字の内容を
『1.魔法使いに転生記~スライムだけは倒せない~』
『2.俺のひのき棒がエンチャント済みだった訳だが』
『3.【2】でダンジョンに臨む訳だが』
どれも戦うんだよな、これ。更には全部鬼畜なんだけど、『3』とかはもはや
……おかしいだろ、これ。
「そ、そういえばさ。名前聞いてなかったよな」
時間稼ぎのつもりで、名前を聞いてみた。これからも世話になるんだし、女の子はまだしも幼女とかチビじゃ失礼だろうし。
「そうじゃにゃ、カナタ・アトリがおにゅしの
「いや、俺の名前じゃなくて、」
「いやではにゃい。これから生きる世界では、カンジの表記が不自然ににゃる。我が名を述べる前に改めた認識をしゅりゅにょじゃにゃ……むぐっ」
後半は噛みすぎて謎だったが、さして重要性はないだろう。無視。
ところで、片仮名が基本になるんだな。ここら辺に世界観の違いを感じるけど、言語に狂いはないのかね? まあ、大人の事情とか、色々あるのだろう。
これ以上語るとボロが出そうだったので、女の子の名前に話を戻そう。
「哉太を先に言えばいいんだよな、分かったよ」
「哉太よりは、カナタって感じじゃな。まあ、その辺はじきに慣れるじゃりょう」
小さな息を吐いた女の子は、顔をほんの少し赤らめて、俺の男心を
「メレディス・ヴァン・ビューレンが真名じゃ、他の神からはメレと呼ばれておりゅ」
「………………」
「にゃ、にゃんじゃ。無心状態になっとりゅぞ」
た、たかが名乗りでこんなに衝撃を受けるとは……!
神でも読めなかった伝説の無心状態から醒めた俺は、女の子、もといメレディスを怒鳴りつけた。
「チョーかっけーべぇ!? マジ名っすか、それ!!」
「いたい、肩を掴みゅな!」
我に返るまでそう時間はかからなかったものの、衝撃と興奮は中々鎮まらない。いや、肩を掴む手は弱めたけどね。
っつうかさ、反則だろ!? このくりくりのロリフェイスで『ヴァン・ビューレン』とか!! 今生において一番の感動だったね、ありがとうございます。
「ふう……これからはそう呼びゅがよい。そんな事よりも、さっさと選ぶのじゃ……その………カナタよ」
照れとのギャップも可愛いしよォ、いきなり愛らしく見えてくるじゃねえか!
「さっきかりゃのぅ、全部見えてるのじゃぞ?」
綺麗な頬を掻きながら、照れくさそうにするメレディス。年齢とかは後々聞いていくとして――そろそろ頃合いだな。
俺が生きる世界を決める。否、俺が生きる世界を決める方法を決める。
いざそうとなると、肩の力はすっと抜けていった。
集中している。俺が最適な手段を選べる様に、体が環境を用意したのだ。
それに気付くと、俺には自然と答えが提示された。公平かつ後悔しない、最適な手段。俺の好きな遊びでもあった――と思う。今は何故だか分からんが。
「――決まった様じゃな。まだ我には隠しているが」
「フッ……噛むの忘れてるぜ、心読めんじゃねえのかよ」
「判らなくて当然だけどな」と付け足すと、メレディスは肩まで伸びる肩を揺らし、感心した様に微笑んだ。
「メレディス、紙を並べてもらえるか?」
「了解した」
「ああ、俺達に字が見えないように頼む」
「了解したが………何をしゅる気じゃ」
「それは並べてからのお楽しみだな」
さっさと作業を終えたメレディスに続き、並んだ紙をすがめ見る。
よしっ、準備は万端だな。
「メレディス、教えるぞ」
「う、うみゅ――――」
ごくり。生唾を呑む音がふたつ。
長い静寂の中、白い空間に男声が響いた。
「―――ババ抜きで決める―――」
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