【2】でダンジョンに臨む訳だが

白侑俚佐

プロローグ リンカーネイション全編

始まる→俺は死んでる。

 アニメなんかでよく見る、白い空間へやにいた。起きたばっかで全く状況が把握できないんだけど……。目覚める直前は、すげえ苦しかったのを記憶してる。

 確か、いつもより豪華な夜飯よるめしに囲まれて――

 

 「目覚めたか、人間の仔よ……プクク」

 「おわっ!! 誰だぁおんめぇ!?」


 何事だよいきなり!? 正面からした声のはずだが、勿論前には誰もいない。

 ……チクショウ、地元の方言が出ちまったじゃねえか。俺が田舎者なのは、内緒にしてくれるよな? じゃなきゃ泣くから。東京民に泣かされるから!

 我ながら冷めたアホっぽい考えを巡らせていると、今度はシャツの裾を軽く引かれた。ビビりつつも下を向くと、


 「な、なんじゃ。じろじろと見るでないぞ、人間の仔が」

 「子どもって大きさじゃねえだろ、俺。って言うか、キミの方が人間の子っぽいよ……まあいいや。んでさ、ここどこか分かるかな?」

 「む、無礼なっ! 我は神じゃぞ。そしてここは我の間じゃ。

 異存はあるか? よ」



へそよりちょっと大きい位の、可愛い女の子の姿があった。かなりの美少女なんだけど、子ども扱いしたせいか、すぐにいじけて顔を逸らしてしまう。

 厨から始まる病気なのはなんとなく分かったが、こんな娘とこんな場所にいる理由が理解できない。

 いや、唯一の可能性としては……。

 ……俺の彼女?


 「そんな訳にゃいじゃろうが、このバカ人間の仔! 

 ――そなたは死んだにょじゃ、食中毒でな」

 「………さっきから何言ってんの?」


 本当、何言ってんのこのチビ。


 「チビじゃないっ! そなたが彼女云々言うから――むにゅ」

 「お前神か!?」

 「らはらほーはといっほうふぁおーが、ほんなほほふみゃむら~!」

 「あんまし聞こえねえが、マジな神なのか!?」


 「はにゃせ」と、無力の抵抗だけが辛うじて聞こえたので、ほっぺを摘まんでいた指を離す。すると、女の子大きなは息を吐き、緋色の瞳で俺を睨み付けた。白い部屋の反射光がまぶしく感じるほど紅く、秀麗な瞳だ。

 

 「心を読むにゃど簡単にゃことじゃ。しょれに、ひつぉつじゃけ言っておこう! ……神にょお言葉は信じるもにょじゃぞ?」

 「ごめん、お言葉かみかみで全然聞こえない」

 「我は神じゃと言っておるにょじゃ! 全く、屁理屈ばかりこねおって……」


 更に機嫌を悪くした様子の女の子は、ほっぺたを膨らませてしまった。これ以上喋る気はないって事か……。でも、それじゃあらちが明かないしなァ。

 なんて弱気な考えこ全部読まれていたらしく、同情を煽った末にダメ元で頼み込んでみた。


 「はあ……家に帰りてえなァ………母さん…………お袋…………ッ!!」

 「お、おい。泣くなよぅ……しょうがにゃいの………ほら、面を上げて?」


 結果。

 少しだけ教えてもらったんで、説明しよう。


 この白い場所で俺に声をかけた幼女こいつは女神。出生を司る神云々ってのは省略する。生まれたばっかの、可愛い女神だけどな。

 んで、一方の俺は食中毒(笑)で死んじまって、ここに取り置きされているらしい。取り置きってことは俺に用があるのだろうが、その話はこれからだ。


 「――そなたらの世界には、生まれ変わりとか、【転生】にゃる言葉があるはずじゃが……知っておりゅな?」

 「ああ、死んだ奴が来世にって話だよな」


 いちいち噛まないと気が済まないのか?

 正直に言うと、ここまでの急展開についていけずにテキトーな返事をした。心が読めるのも本当らしく、女の子もムスッとしていたが、相変わらずの早口で説明を続ける。


 「大方合っておるがのう………選ばれた者しか【転生】はできぬのじゃ。生憎、そなたは選ばれた者じゃにゃい。このまま地獄に落ちるのが定めなのじゃ」


 いきなりの死亡発言に少々驚いたが、すぐに別の疑問が浮かび上がった。

 俺、もう死んだんじゃねえの? いや、だったらビビる必要ない訳でしょう?

 そんなら……まあ………仕方ねえよな!!


 「優しく頼むよ」

 「恐くないにょか!!」


 心を読まれても大丈夫な様に、思ったままを口にした。嘘を吐いて命乞いしても、悟られちゃあ意味が無いしな。

 ちなみに『読めてるってのが嘘かも』とは思わない。疑問符クエスチョンの無いつぶやきが、俺の心を読めている証拠だからだ。

 つまりは、これが虚勢だと言うことにも、こいつは気付いているんだよな……カッコ悪い最後だぜ。まあ、俺らしいかもしれないな。


 「早く送ってくれ。地獄だっけか?」

 「……プクク、面白い奴じゃ。

 ――聞かずとも分かるが、名乗りたまえ。遺言として見届けてやりゅ」


 薄く笑う女の子。本人曰く、女神の微笑みなんだけど、惜しい所で噛んじまったな。たいした奴だよ、全く。

 実感がないまま迫る “死” に怯えながら、俺は彼女に遺言なまえを告げた。


 「花鶏あとり哉太かなただ。両親に、有難うと伝えてくれ」


 それだけ訊くと、女の子は俺に背を向けた。

 この状態で読めるかどうかは知らないが、一方的でも良い。恐怖を紛らわしてくれたこのガキに頭を下げた。

 文字通り、『心から』な。

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