決める→ババ抜きの舞!?

 ふっと、風が抜けた気がする。

 三枚の紙を揺らした俺のイケボは、メレディスの顔を大いに歪めた。いや、表現は間違ってない。ブサ可愛いってこんな感じなんだな。


 「我はブサくにゃいっ! 無礼者がっ!!」

 「ああもう、めんどくせえ能力だなァ。別に悪い意味じゃねぇよ!」


 割と本気で可愛いが勝ってる。いや真面目に。


 「やっぱりブサ要素入っとるじゃりょ~がぁ!」

 「違う! 俺の目を見て!?」


 ぽんと頭に手を置くと、ひとまずは落ち着いてくれた。しかし、神の力によって、俺のすねにはアザができていた。しょぼい神である。

 今のぼやきは読まれなかった様で、ジト目になったメレディスは説明を求めるための声を発した。


 「……で? 何故ババ抜きにゃのじゃ?」

 「だせえからだ」


 端的に答えると、メレディスは首を小さく傾げた。心を読もうとしているのだろうが、それ意外に理由なんてない。見付かる訳もない他意を探させるのも可哀想だったので、話題を少し掘り下げよう。


 「……あのさ、どの世界にも、人が生きてるんだろ?」

 「まあ、そうじゃな。どれを選んでも、前世の様に楽な生活は送れんが」


 ちなみに、もう前世の記憶はないらしい。親不孝な話だが……しょうがねえよな。普通に死ぬよりは恵まれてるんだし。


 「そんなんは承知してるっての。――んでさ、この字面じづらだけで選んだ世界で暮らすのはだせえなって、思うんだよ」


 ふむふむと頷くメレディス。


 「成る程にゃ、男らしくて何よりじゃ」


 お褒めの言葉からして、どうやら納得してくれた様だ。腕を組みながら、右手に持った三枚の紙を差し出してくれる。


 「我も見ないぞ、なにせ一緒に行くのじゃからにゃ。さあ引け!」


 サポートとは言ってたけど、一緒に行くのかよ……。

 そう思いつつも紙を凝視すると、ひらめきが俺の脳内を駆け巡った。


 「待て……一緒に行くって………!?」


 こいつが心を読めることすら忘れて、俺は叫んだね。

 ドゥーセィじゃないっすか!? 同棲でしょ、共同生活!!

 フォーーーーーーーゥゥゥ!!!!! 花咲けっ、俺の青☆春!! まさか血縁もない女の子に、


 「いい加減にしやがれぇ!!」

 「ぐはっ」


 殴られた……。くっ、これが神の力か。あせもが痒いぜ。


 「落雷も引き起こせるのじゃが、どうする?」

 「調子に乗ってたッス、ホントすんません」


 メレディスは、変なコトすんにゃよ、と付け足してそっぽを向いてしまった。出来るか、ロリコンじゃねえし、雷なんかには勝てねえっての。


 「我はそなたに期待しておりゅのじゃ、早く引きたもれ。伸びてしまうぞ」

 「どこの丸だよ。いや、引くけどな? 真っ白い部屋に暗雲出すとか、止めてくれよな?」


 一度発生した黒い入道雲が消え失せると、緊張した空気が場を包み込んだ。


 「溜めるでない、決断を急ぐにゃよ」

 「どっちだよ………」


 紙の上を右往左往する俺の手が移動する度に、対面に立つメレディスの白髪はくはつもぴこぴこ揺れている。色素が抜けた様な真っ白なそれからはすげーいい匂いがしたが、拍動はくどうのせいで上手く感じられない。


 「よしっ……これにしよう」

 「………カナタが決めることじゃ、他意はない」


  本日何度目かの静寂と、生唾を呑む音が聞こえた。今度ばかりは、俺のおでこからも冷たい汗が流れている。


 「引いたらすぐに行けるんだよな?」


 ゆっくりと、俺サイドに黄ばんだ紙を寄せていく。メレディスの頷きも音と成りうる静けさの中を、『ぺらり』と陽気な声が通った。


 「ふう――んじゃ、行こうぜ」


 しかし、それも束の間のこと。

 騒がしかった2つの音源も去り、白い空間には再びの静寂が訪れた。

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