第42話 心理テスト
近藤や土方らが乗った「富士山丸」は横浜に入港した。負傷者22名が横浜病院に入院するため下船し、世話役の島田魁が同行した。次の日、船は品川に到着し、土方は近藤と沖田を連れて、松本良順がいる和泉橋医学所に向かった。他の隊士達は、別の船で先に到着していた永倉や原田、斎藤たちがいる釜屋という宿所へ向かった。江戸に居を構えてから、隊士達は傷の治療と静養に専念した。一方、近藤と土方は。幕府の役人と会ったり、金策、負傷者した隊士の見舞いなど、多忙を極めていた。
江戸について数日後、真純は和泉橋医学所にいる沖田の見舞いに行った。
「真純ちゃん、待ってたよ。」
「沖田さん、お団子を買って来ましたよ。一緒に食べましょう。」
「僕はすっかり君の団子仲間になってしまったな。」
真純はお茶を入れるが、沖田は手をつけない。京を出立する前から食欲は低下していた。
「ねぇ、近藤さんはどうしてる?」
近藤は松本良順の治療を受けながら、江戸城へ出向いたり、日野の佐藤彦五郎らと面会していた。そんな話を聞きながら、沖田はふと寂しい表情をする。以前、沖田は「孤独が身にしみた」と言っていたが、ここにいてまた同じ思いを味わっているのかもしれない。
「沖田さんが道を歩いていると、3種類の動物と出会いました。出会った順に動物の名前を言ってください。あとその動物に対するイメージ…印象と言うか、思い浮かぶ性格とかも。」
「何、いきなり。どうしてそんなのに答えなきゃいけないの。」
「これ、ちょっとした心理テストなんですよ。いいから直感で言ってみてください。」
「テストって??まぁ、いいけど。道で出会った動物の順番??うーん…犬、猫、鳥。」
沖田は面倒くさそうに即答するが、真純はくすくす笑っている。
「1番目はなりたい自分、2番目は他人から見た自分、3番目は…本当の自分を表しているんですよ。」
「適当に思いついた順に言っただけだよ。僕は別に犬になんてなりたくないよ。」
「犬みたいに、従順でありたいってことじゃないですか。侍にぴったりですね。」
「そうかなぁ。で、2番目は・・・僕は皆から猫って思われてるの。」
「これ結構当たってますね!猫って他人に媚びないし、計算高いし、したたかで…。」
「それって、いい意味なの?」
「え、多分。3番目の本当の自分…沖田さんは…鳥。」
真純は本当は外へ羽ばたいていきたいと思っている沖田の心を表しているような気がした。
「なんだか面白いね。真純ちゃんは?」
「私は…馬、牛、蛇。」
沖田は大笑いする。
「真純ちゃんは、確かに牛っぽいね。のんびりしてて。」
「それって間抜けってことですか?牛って食べるところがいっぱいあって、おいしいんですよ。」
「へぇ、滋養のある食べ物ってことしか知らないけど、牛っておいしいのかぁ。」
今にも噛み付きそうな表情で沖田が真純を見る。
「ちょ、ちょっと沖田さん…。」
「で、最後は毒蛇かぁ。真純ちゃんって案外毒持ってそうだもんなぁ。」
沖田がまた大笑いする。
そこへ、障子の向こうに人影が写り、沖田の名前を呼ぶ。真純が障子戸を開けると、斎藤が立っていた。斎藤は先の戦いで受けた傷の治療のために医学所に来ていた。真純は斎藤に場所を譲る。
「一君、何しに来たの。」
「取り込み中か。」
「そうだよ。」
「斎藤さん、取り込んでいませんよ。今、お茶をお持ちします。」
真純が部屋を出て行く。新撰組の剣と言われた二人は無言である。
「はしゃぐ声が聞こえたが、元気そうだな。」
「真純ちゃん、なかなか面白くてね。自分が病気だってことを忘れちゃう。」
「そうか。」
「一君は、彼女のことどう思ってるの。」
「どうも思っていない。」
「でも、彼女は違うかもよ。一君に惚れてたりして。」
「ありえんな。」
「あれ、一君、顔が赤くなってるよ。」
斎藤は顔を背ける。
「あんたの冗談には付き合って―」
「失礼します。」
真純が急須と湯のみを持って現れる。斎藤は真純の顔から目をそらす。
「そうそう、さっきの一君にも聞いてみようか。」
沖田と真純が質問するが、
「なにゆえ、道に動物が居るのだ。」
「人間は動物に含まれるのか。」
などと逆に斎藤の質問攻めに遭い、説明するのに一苦労するも医学所に明るい声が響いた。
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