第31話 分離

その後、伊東は九州に出張して倒幕志士と面会し、御陵衛士という墓守職を拝命するという名目で、新撰組の離脱を申し出た。伊東のほか12名の離脱隊士の中に、藤堂と斎藤の名前もあった。斎藤は、朝稽古の時に隊士達にその旨を告げた。稽古を終え他の隊士達が帰っていく中、真純はまだショックが抜けず道場に一人残っていた。

「斎藤さん、本当に新撰組から離れるんですか。」

「あぁ。」

「どうして…。」

「伊東さんに誘われたからだ。」

「斎藤さんと伊東さんって、馬が合うとは思えませんが。」

「あの人から学ぶべきこともある。あんただって伊東の考え方は間違っていないと言っていたではないか。」

 そういわれると返す言葉がない。

「もう、斎藤さんに稽古をしていただけないのは残念ですが、これからも鍛錬を続けていきます。」

「当然だ。」

 斎藤がなぜ伊東一派に名を連ねたのか、真純は納得が行かなかった。伊東が斎藤を気に入ったのは想像できるが、二人が意気投合するとも思えない。だが、とにかく斎藤は新撰組を去っていくのだ。いつも当たり前のように身近にいた斎藤がいなくなるのは、寂しかった。真純は、道場を後にする斎藤に一礼した。

 伊東一派が離脱する知らせが屯所に広まった頃、真純は藤堂に別れを告げに行く。藤堂は江戸から京に戻ってから様子が変わっていた。あまり永倉や原田と呑みに行かなくなり、伊東の勉強会に熱心だったり、一人で考え込んでいることが多かった。

「俺が伊東さんを新撰組に引き入れたからな。俺は…伊東さんの掲げる尊王開国政策っていうのは、理にかなっていると思うんだ。」

「幕府を倒す…ってことですよね。」

「…新撰組と刃を交える日が来るかもしれない。」

「伊東さんや藤堂さんの考えていることは、間違ってないと思います。そういう時代が来ます…多分。」

「だったら真純、お前も一緒に行かないか。伊東さんは、真純も連れて行きたいと言っていた。」

「私は、最後まで新撰組の隊士で居続けます。例え…幕府が負けるようなことがあっても。」

「…そうか。お前はいつのまにか、一人前の武士になっちまったんだなぁ。そうだ、ちょっと待って。」

 藤堂は少しして、新撰組のダンダラ羽織を手に戻ってきた。

「これ、お前にやるよ。俺は小柄だから、多分お前に合うと思うんだ。」

「藤堂さん…ありがとうございます。」

 藤堂の血と汗と涙の結晶がしみこんでいる羽織を力強く握り締める。

「藤堂さん、新撰組から離れて会えなくなっても、志が違っても、よき友でいられたら…そういうの、駄目ですか。」

「そう・・・だな。」

 藤堂は決意が揺らがないよう、空を見上げた。

 その日の夕方、桜が満開に咲き乱れる中、伊東一派は新撰組から分離し、屯所を去った。

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