第27話 姉
日野近辺で腕に覚えのある隊士の勧誘をしてから三日がたち、土方と真純が江戸に戻る日が来た。真純は昨年京で会った富沢忠右衛門に挨拶することができた。
「歳三、あんたはやっぱり隅に置けないわね。」
のぶが土方の横に来てささやく。
「なんだ、急に。」
「綾部さんのことよ。新撰組にも女の隊士がいるとはね。」
「どうしてそれを…。」
「あんたの姉だもの。綾部さんは、あんたのこと、将来歴史に名を残すなんて言ってたわよ。」
「あいつが?」
「ずいぶんかいかぶってるなぁとは思ったけど、あんたのこと、ちゃんと見てくれる人がいて安心した。まさかとは思うけど、綾部さんとの恋の道で迷うようなこと――」
「ねぇよ。あんな短髪は俺の好みじゃねぇ。」
「へぇ。綾部さんだって、あんたみたいなわがままな鬼副長はお断りでしょうけどね。」
土方姉弟は、明るく笑って別れた。
土方と真純は試衛館に戻り、伊東、藤堂、斎藤とともに上洛する隊士たちを選考した。その後、最終的に52名の新加入隊士を連れて江戸を出発した。
「姉が、あんたによろしくと言っていた。」
列のしんがりを務める斎藤が、斜め前を歩く真純に向かってつぶやく。
「大した話もなく、皆で食事をしただけだがな。」
真純が後ろを振り返ると、遠くを見て知らんふりをしている斎藤の姿があった。
「斎藤さんも、土方さんもお姉さんがいるんですね。」
「そういやぁ、総司もだな。」
藤堂が会話に入ってくる。
「みなさん、お姉さんには頭が上がらなそう。」
「総司の姉ちゃんもすごい性格きついらしいからなぁ。そういえば、真純、せっかく江戸に来たのに家族に会わなかったのか。」
「はい…家族はいないんです。」
この時代には、と心の中でつぶやく。
「じゃぁ、ずっと親戚か知り合いに世話になってたのか?」
「えぇ、まぁ…。」
「ふーん、俺と似たようなもんだな。」
藤堂は以前、酔った席で自分が津藩主・藤堂和泉守のご落胤だと言っていた事があった。顔立ちも気品があるし、藤堂家の刀工に作らせた高価な刀「上総介兼重」を所持しているので、真純も信じていた。
「藤堂さんは、お父さんと一緒に暮らせなくて淋しかったですか。」
「ん…昔は、自分の境遇を恨んだり、母親が気の毒にもなった。昔はな。今は気にしてないさ。」
「新撰組が家族みたいなものだからですかね。近藤さんがお父さん、土方さんがお母さん、長男が永倉さん、次男が原田さん、弟が沖田さんと藤堂さん―」
「一君は?」
「ご隠居のおじいちゃん?」
真純と藤堂は大笑いし、話を聞いていた新入り隊士もクスクス笑っている。
「俺は近藤さんよりも年老いて見えるのか。」
「いえいえ、斎藤さんが経験豊富で貫禄があるってことですよ。」
真純は真に受けている斎藤を必死になだめる。それをまた他の隊士が笑っている。
「でも…いつまでもそんなふうにはいられないよな…。」
空を見上げながら、藤堂がつぶやく。心地いい春風が藤堂の長い髪を揺らしていた。
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