第2話 機会を音に

「話はある女性の物語から始まります」


彼女は、高校時代からの友人二人と一緒に柊館ひいらぎかんに来ていた。

柊館とは、昭和五十年創立された建物で、当時は有名な作家が新しい住まいに建てたものらしく多くの使用人が出入りしていたが、今では持ち主が一般の宿泊施設として経営している、そこへ彼女たち三人は来ているのだ。

館のそびえ立つ門の前にあるバス停に彼女たちは着くとそこには、周りからの光を遮断するように木々が生茂り、昼間なのに薄暗さと不気味さを関しだしていた。

「ねぇ!由紀ゆき!聞いている?」

「ん?あぁ、ごめん聞いてなかった、それでなんだっけ?」

「だから、この門からあと少し歩けば柊館に付くって。あれ?優莉ゆうりはどこ行った!」

友人の一人であるはなが、もう一人の友人である優莉を探し始めたその時に後ろから、「カサカサ」っと物音が聞こえる。普段ならばそこで優莉が驚かせて笑い話になるのだが、そこから現れたのは「蟲」むしであった。

体長15cmほどの独特なシルエットで、足が多い「百足」むかでであった。

「キャ――――!虫!虫!嫌!来ないで!何でこっち来るの!嫌―――!」

華が叫んでいる傍からそのムカデを見て、

「あー!ムカデだー!可愛い!!」と何と間の抜けた声がする。声の主はムカデを「可愛い」と言う程の感性の持ち主である、由紀と華の二人には心当たりがあるが、今はそれどころではない、華は虫への恐怖によって、パニックを起こし始めたからだ。

「優莉!そのムカデ早くどっかにやって!」

と由紀がその人物…優莉に支持を出す。

「うん、わかった……そぉ~れ!」

優莉は手に持っていたスコップでムカデを森の方へと投げこんだ。

「優莉、ありがとう」

「ううん、困ったときはお互いさまだよ¬~」

「ところで優莉、なんでスコップなんて物を持ってるの?」

「えっと、これはその~ちょっといい感じに驚かそうかなと思って」

「スコップで驚かすって、どうやって?まさかだけどスコップで後ろから…って、

ちょ待て優莉!ちゃんと説明しなさーい!」

優莉が華からのお説教を逃れるようにして三人は門を潜り館へと向かう。

館までの道中には、大きな庭園や噴水が建っていた。

館の前まで着くと一人の男性が出迎えた。

「ようこそ、貴方様方はご予約されている今井様方でよろしいでしょうか?」

「はい、合ってます。それで貴方は?」

「私しは柊館で執事をしております、武田たけだと申します。何かあれば何なりとお申し付けください」

武田は自己紹介を簡単に終わらせ、すぐさま業務へと移った。

「では、今井様方に館を案内する者を呼び付けますので少々お待ちを、またお荷物の方は我々が責任をもってお部屋に運ばせて貰いますので此方こちらでどうぞごゆっくり」

武田は、館のロビ―の一角に三人を連れ立ち去っていった。

武田が去ってから数十秒ほど待つと一人のメイドが三人の所に来た、そのメイドが三人に館を案内するらしい。

メイドが別館にあるホールの紹介を終えたところで、「カーン」と低い大きな音が館中に響く。

「うわっ!何の音!?」

「これは、正午を知らせる鐘です。直に止みますので、ご安心を」

メイドがにこやかな笑顔を見せるが何処か無理をして作った笑顔に見える。

だが、ここで「無理して笑っていませんか?」だなんて聞くのは失礼であり、もし違っていたら相手を不快にさせてしまうのだ、それだけはどのような立場であろうとも避けなければと由紀は思うがメイドの笑顔が由紀には気になるのだ。

メイドから館の案内を終え、各々の部屋い荷物が来ているのか確認するために一次的に解散をし、部屋へと歩を進める。

部屋に着き荷物の確認をしようとした時に「コンコン」とノックの音がした。

「はい、どうぞ」

私が扉を開けた先には武田さんがそこに立っていた。

「失礼致します。今井様、お食事とご入浴時の事を説明しておりませんでした。まず、お食事は午前八時・午後十二時・午後八時に食堂にてご用意させてもらいます、ご入浴の際は各階の南奥のシャワー室が在りますのでそちらをご利用ください」

「わかりました。優莉と華には私から伝えておきます、ありがとうございました」

武田からの説明を二人に話すため、彼女は二人の部屋へと向かうがその途中に一人の女性とぶつかってしまった。

女性が倒れると、「カラン」と何かが転がった音がした。

音の出所を見たところ小さい「管楽器」であった。

「すいません。大丈夫ですか?」

「私はなんとか……あれ?「ピッコロ」は何処!」

「それって……これですか?」

「そうそれって、頭部管が無い!?」

「頭部管?」

「ええと、フルートとか管楽器の吹くとこ」

「それなら、あそこにあり……」

言いかけたところで女性は、由紀が指さす方へと体を向け、目を見開き口から声が漏れる。

「あ、あれって私の頭部管じゃないよね、まさかアレが私のって事はない……よね?」

女性は目の前にある頭部管だった「ソレ」を見ている。

女性は一度辺りを見回してから「ソレ」をもう一度みて言う。

「嘘…だよね?頭部管があんなふうに割れる訳ないよね、ねぇ?」

女性は由紀の方を向くが、その眼は何処か遠いところを見ていた。

「本当にすいません!あの、弁償しますからどうか、ゆるしてください!」

と由紀が言うと、女性は、「アハハハハ」と笑い始めた。

それに対し由紀は自分が壊してしまった頭部管を見て笑い出した女性は大丈夫なのかと思いつつも、謝罪をしてると。

「あー、ごめん、ごめん。これは、玩具の頭部管だから。いやー、ここまで上手く引っ掛かるとは思わなかったわ」

「えっ?玩具?」

「そう、玩具」

「で、でもその楽器は本物ですよね?」

「まあね、ただ頭部管を除いてね」

女性の言葉に由紀の頭がついていけず頭上に「?」を浮かべていると、女性は上着のポケットから白い布に包まれた物を取り出しおもむろにとり始め、包まれていた物の全貌が現れる。

それは、先ほどの玩具と似ているが、玩具と違い独特の鮮麗差がある。

「これが、ほんとの頭部管。さっきの持ってたのは、人を騙して遊ぶための玩具だって事は、分った?」

「は、はぁ」

由紀が言われたことに対して疑問を持ったが、それを察知したのか女性が聞こうとしたことに対して先にこたえる。

「今、なんでそんな物持っているのかって思ったでしょ」

「えっ、どうして分かったんですか?」

「大体の人がそう聞くから」

と笑って答える

「で、どうして持っているのかは、人をからかうのが好きだから、かな」

「…そうなんですか」

由紀はこの女性と出会ったことを少しばかし後悔はしたが、それ以上に女性の努力の方向の可笑しさに笑い始めていた。

女性は、急に笑い始めた事に一瞬戸惑ったのだが、、何が可笑しくなったのか一緒になって笑いだしていた。

「あー、どうして私まで笑っちゃうんだろ」

「知らないですよ、あはははは」

二人の楽しそうな笑い声が館の長い廊下中に響き、二人だけの時間に若い男性から急を要する声が届く。

「ちょと、こんなところで何油売ってるんですか!」

男性は女性に対して半ば呆れながら言うが、女性は当たり前のように…「ここで、油を売ってたんだよ」と胸を張って言う。

男性は少し女性特有の豊かな胸に動揺するも言われたことの馬鹿さ加減に付き合う訳にもいかないのか、時計をちらりと見る。

「ちょっと時間押してるんで、もう行きますよ飛鳥あすあさん」

「何よ、人なんて待たせてなんぼでしょう」

「そうですか、では差し入れできているプリンはいらないと伝えておきま…

「よし、急ぐよ湖羽こは君」

と女性は急ぐが、由紀に声をかける。

「そういえば、まだ自己紹介してなかったよね、私は東藤飛鳥。貴方は?」

「今井由紀です。よろしくお願いします」

「うん♪よろしくね」

 由紀と飛鳥のやり取りが終わり次第急ぐようにと湖羽と呼ばれた男性は先に行ってしまった。

由紀は飛鳥と連絡先を交換し、食事の約束を取り付けられて、飛鳥は去っていた。

由紀はすぐに華と優莉と合流し、武田から言われたことを二人に伝えて娯楽室へと向かった。

娯楽室には、チェス・ブラックジャック・ダーツ等々がある、その一角には電子ゲームのフロアがあった。

「ここでなら、遊びながらじゃなきゃ人の話を聞かない優莉でも私の話を聞くよね」

華がそう言ったが、華の隣にいたはずの優莉はとっくにいない、優莉は目を輝かせて電子ゲームのフロアへと向かっている。

「って、ちょっと優莉待ちなさい!」

華が優莉を静止させようとするが、それをものともせず進む。

「由紀手伝って!この子ほんと力が強いんだけど…ってこうなったらこうだ」

華は優莉にチョップを脳天へとかます。

「痛い!これはお返しだぁ!!」

優莉はチョップを何度繰り出していた。

その後に華は優莉に対して怒り散らし、2時間経って要約優莉は許してもらうことができた。

「あぁ~やっと遊べる」

「ご苦労様優莉、華は…ってなんで灰になってるの?」

「えっと、まぁほっといて遊ぼ!」

優莉は何故か華が灰になってる事について、詮索して欲しくないようで由紀を電子ゲームのフロアへと半ば強制的に連れていく。

由紀と優莉はあるゲームの前に立っている

右手には拳銃型のコントローラーいわゆるガンコンと呼ばれるものだ、そして画面には大量のゾンビが映っている。開始の合図と共に優莉はガンコンのトリガーを引くと同時にけたたましい音が耳に響く。

「何由紀?やらないの?ならそのガンコン貸して!」

優莉は由紀からガンコンを奪い取り目の前にいるゾンビの集団の頭を正確に打ち抜いていく。

優莉の思わぬ行動に対し由紀は棒立ちしている、由紀は優莉の人の替わりっぷりと、初めてのゾンビを倒すゲームに対しての驚きのせいか思考を停止してしまっている。

ようやくゲームが終わったころに由紀は、

「なにこれ?」

「何ってゲーム」

「そうじゃなくて、なんでこんなゲームをやってるわけ?」

「なんでと言われても…私の趣味だけど」

その言葉を聞き、由紀は大きく溜息をつき優莉を呆れたような目で見る。

由紀の視線もお構いもなく優莉はゲームを始めるが、華が優莉の肩甲骨の辺りを指で軽く押すと…

「痛い!今なにしたの!」

「え?そんな痛かった(笑)」

「なにしたの!」

「ただ単に背中を押しただけだよ」

華が優莉の気をそらしたところで、ゲームから「GAMEOVER」の文字が映し出され、それに合わせて音声がなる。

「ん?げーむおーばー?なんでなったの?」

「ごめんごめん、こんな時もあるでしょ」

「…アハハ♪華、覚悟はできてるよね」

「覚悟ってなんの?」

華が優莉に聞くが優莉は答えず、笑いながら華に向かう。

そして、華の腕を掴みそのまま娯楽室から出ていく。

由紀はその後をつける。

連れていかれるその間、華は掴まれてない腕で優莉の手を離そうとする。

「由紀助けて!」

「そうしたいけど、多分手遅れだと思う」

「えっ!」

華は由紀の方から顔を戻し優莉の前方を向く、そこには「208」と書かれた部屋…優莉が使っている部屋だった。

優莉は由紀に「ちょっと待ってて」と言い部屋に華を連れて入る。

華は手を縛られてベットの上に寝転がされ優莉はベットに寝転がる華を上から見下げる形で華に話し開ける。

「華なんで私が怒ってるか分かる」

「ゲームオーバーになったから?」

優莉は、華の上に跨る。

「そうだよ、それでその原因は何かな」

「私が背中をつついたから」

優莉が体勢を低くし、お互いの顔の位置が近づく。

「そう、だったら何しなきゃいけない?」

「謝らなきゃいけない…それに関してはもう済ませたでしょ」

優莉の体勢がさらに低くなり、顔に吐息がかかる位置に来ており更には優莉の腕が下へ下へと延びている。

「ちょっと近い、近い!それと何しようとしてんのよ!やめて、やめてってば!」

 優莉の部屋から華の嫌がる声が部屋の外まで聞こえる。

 次第に嫌がる声は無くなり静かになる。


「とまぁ、出だしとしては少し明るめでしたが…どうでしたか?」

どうでしたかって…どうとればいいのかさっぱり

「では、気になるところなどはございませんでしたか?」

特にないっと告げると執事の表情は少しの時間黙り込みまた口を開く。

「そ、それでは続いて話をします。」

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夜繰曲 柳澤快誠 @yanagisawa

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