under the sea
きらきら光る水面の太陽。
きゃっきゃっとはしゃぐ友達の声が離れた場所で聴こえてる。
ザブーン!向こうで誰かが飛び込んだ。
ピーッ甲高い笛の音に続いて先生が怒鳴る。
あはは。みんな浮かれてる初夏のプール。
息をいっぱいに飲み込むと勢いをつけて水に潜ってみる。
誰かが髪が濡れちゃうとか言ってたけど、気にしない気にしない。
さっきまでの喧騒が嘘みたいにとてももの静かな水の底。
コポコポコポと自分の身体から浮き上がる泡の音だけが耳の奥に響く。
あ、あの形のいいお尻はナツキちゃんかな?
今のわたしは海に棲む人魚(マーメイド)。
優雅にひらひらくるくると海底を遊泳して廻る。
キラリと何かが光って見えた。なに?宝物かしら?しゅっと泳ぎつけて、拾い上げてみる。
ゲームの碁石?違う、銀色のコインだ。中にはマリア様の像が彫ってある。イコンとか言うんだったっけ。
うちの先生がつけそうなペンダントトップじゃない。きっとどこかの王子様が落として困ってるのね。
手のひらにギュッと握り締めた所で、息苦しくなってきた。
ぷはーっ顔を出して大きく深呼吸した途端、ピッピッピー!上がれーって先生が大声で叫んだ。
わたしの短い人魚の時間もそこで終わった。
うん、絶対先生のじゃない。勝手にわたしはそう決めつけた。
ぺたぺたぺた足の裏を焦がさんばかりの鉄板みたいなプールサイドを走り、周りの金網に引っ掻けて干してあるわたしのバスタオルの元まで掛け寄った。太陽光をたっぷり吸収したタオルを頭から被ると、ほかほかやわらかいお日様の薫りがした。
えへへ、この匂い大好きなんだな。
人のいないプール。
なのにまだ水面はきらきら光って、人魚のわたしを誘っているみたい。
ドボーン!タオルを投げ捨てて思わずダイブしちゃった。
ピーッこらーっ!先生が血相変えて叫んでる。
大きく息を吸い込んで、再び潜水。
穏やかな海の底が怒鳴り声を掻き消してくれた。
おかえり…マーメイド。
呼びかける誰かの声が聴こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます