第3話
「夏の終わり」
一両だけの汽車から降りると、陽太と南海江は改札を素通りして駆け出した。
時間は言っていないはずなのにお義父さんはそこにいて笑顔で私たちを迎えてくれた。
「すみません、おとうさん」
「おかえり、ようきたねぇ」
本当にすみません。また甘えてしまって。
軽ワゴンの中から見る風景はあの日から全く変わりはなかった。
海岸線をうねる道路、陽に照らされて光る波。
車は川沿いを上り鬱蒼とした山々の谷の底を走った。
やがて目の前が開けるとそこには青々とした田園が広がり、その向こうにあの人の家が見えた。
子供たちは自分の家に帰ってきたかのように遠慮せずにずかずかと居間に上がりこんだ。
私は玄関の前に立つと何故か胸の辺りが苦しくなって中に入るのに躊躇した。
「疲れたじゃろ、さあ入って」
お義母さんの招き入れでやっと家の中へ入れた。
子供たちは無遠慮に飯台にあったおせんべいの袋を開けようとしていたので私は少し怒って二人を呼んだ。
「陽太、南海江、こっちに来なさい」
「はーい」
私たち三人は並んで仏壇の前に正座し、お線香をあげて手を合わした。
「丘」
彼女が風邪で学校を休んだ日は最悪だった
何も手につかないし
何も考えられなかった
おかげで小テストも殆ど白紙で
先生にこっ酷く叱られた
次の日彼女は登校した
僕は彼女に請われてノートを貸した
彼女は満面の笑みでありがとうと言ってくれた
この力はどこから来るのだろう
腹の底からふつふつと湧き上がる不思議な力
学校の帰り、自転車で一気に丘に駆け上った
デコボコの砂利道を駆け上った
体中汗だらけで息も絶え絶え
海を見下ろしながら奇声を上げる
頭がおかしくなるくらい叫び走りまわって
地べたに倒れこみ、空を見た
海を見た
草木を見た
ああ 美しいってこういう事なんだ
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