第2話

「丘」


初恋は中学二年のとき

彼女はあまり目立たなかったけれど

席替えのとき隣に来て

僕の落とした消しゴムを拾ってくれたときの

顎から首筋にかけたなんともいえない曲線が

僕の細胞一つ一つに記憶され

それからというもの

彼女の瞳、唇、声、髪、指先、すべてがいとおしく

そしてすべてが欲しくなった

毎日が楽しく、苦しかった

何を話していいか分からないし

話そうとしても喉がからからになって舌がまとわりついて

そんな自分を格好よく見せたくて無口なふりして

結局、時間だけが過ぎていった



「夏の終わり」


あなたと初めてこの街へ来たとき私は正直退屈で身を持て余していた。

列車に乗っている人たちは大きな荷物を持った老人ばかりで

駅舎にも若い人は誰も居なくて、閑散としていた。

やっと着いたのかと思ったらそこから乗り換えて更に二時間も列車に揺られて気分が悪くなったのを覚えている。

ようやくあなたの街の駅についたらそこには駅員さえ居ず、切符を箱の中へ投げ入れて改札を出ると、あなたのお父さんが軽のワゴン車で迎えに来ていて、海岸沿いの国道を一時間くらい走った。

日本という国は狭い国のはずなのにこんなにも私の住むところからかけ離れている場所があるのだとはじめて実感た。

海沿いの道は何度も車で走ったことはあるけれどその時は目に映る風景はわざとらしいほどに澄んでいて、私の曇ったフィルターが一枚一枚剥ぎ取られていくような、そんな不思議な感覚えを覚えた。



「夕景」


重たい鉄の眼鏡に、何枚ものレンズが装着されていて、

眼科の先生がレンズを取ったり着けたり。

その度に目の玉が痛くなって、

「C」の記号が丸くなったりゆがんだり。

ようやく輪郭がはっきり見えて、その通りの眼鏡を買って貰った。

だからどうしたっていうんだろう。

心配しているのはお母さんばかり。

お父さんは「似合ってるね」と言ったきり。

見えるのは家の居間の床のシミと、つまらない教科書の文字だけだった。

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