第127話 美しき日々 後編

 私はその誘いを二つ返事で受け入れた。親友との放課後うどんデート。前は週一くらいでやっていたっけ。何だかすごい久しぶりな気がする。

 何気ないこんな時間が本当に大切だったんだなあって、今になって本当にそれを実感するんだ。


「あれ?どこ行くの?」


「こっちこっち!一昨日新しいうどん屋さんが出来たんだよ!ここは行かなきゃでしょ!」


 鼻息の荒い優子に腕を引っ張られ、私は彼女の言う新しく出来たセルフのうどん屋さんに吸い込まれていった。やっぱうどんにかける情熱が熱いわ。そう言うところも含めて私はこの親友が大好きなんだよね。この新しいうどん屋さんのうどんもまた美味しくて、私は熱くうどん愛を語る優子の言葉を黙ってうなずいていた。



 そんな私達を見守る影がポツリとつぶやく。


「さて、あいつはいつまで覚えている事やら」


 笑みを浮かべる有己を見た龍炎はニヤニヤと含み笑い。


「あれ?すぐに忘れて欲しいんじゃありませんでしたっけ?」


「あ、当たり前だろっ。ずっと覚えてもらってちゃ困るぜっ」


 からかわれた彼は顔をそらすと輝き始めた星空を見上げる。そんなコントをしている2人の前に、音もなく芳樹が現れた。


「寄り道もそのくらいにしとけよ。闇の使徒には闇を守る重要な仕事があるんだ」


「お、おうよっ!」


 こうして仲良し闇の使徒3人組はまた闇の中に紛れていった。



 今、使徒達がどんな事をしているのか私は知らない。

 けれど、きっと今度こそは人間を助ける神様の使いらしい事をしているんだろうなって信じてる。少なくとも誰かに恨まれるような事はしていないだろう。だってもう彼らの主の闇神様は神様の座に復権しているからね。


 うどんをたっぷり堪能した私達は満足してお店を出る。入店した時はまだ夕暮れの風景だったはずなのに、もうすっかり夜の景色に変わってしまっていた。

 外の空気に触れた瞬間、ふわっと懐かしい気配を感じた私はその感覚を辿って空を見上げる。


「あれ?」


「どしたん?」


 この行動に優子が違和感を感じたみたいで首を傾げた。探した気配の先に何も見つけられなかったのもあって、私は心配させないように無難な返事を返す。


「や、何でもない」


「そか」


 そうして、私達は学校であった事やテレビやネットの話題を止めどもなく話しながら仲良く家に帰っていく。こうしていると、もう二度とあんな冒険に巻き込まれる事はないような気がしてくる。

 ふと見上げた夜空は、星達がまるで私達を優しく見守るように美しく輝いていた。



 今でも私は闇の中に私達を見守る何かの存在を感じて、たまに振り返る事がある。大抵は気のせいなんだけど、たまにそうじゃない気配をしっかり感じ取れるんだ。

 確かに記憶はだんだん薄くなってきている気もするけれど、これは誰かの意図的な方法とかじゃなくて普通に忘れていく感じ。物事は思い出さないと忘れていくって言うけど、だったら絶対忘れないように定期的に思い出してやるんだ。

 それで、いつかあの瀬戸内の島にももう一度訪れて全ての確認をしたい。案内役の使徒の人はまだ岡山駅の近くにいるのかな?いてくれなきゃ困るけどねっ。


 空っぽになった私の心の中は、これから青春の思い出が沢山入っていく。あの冒険を乗り越えたから、きっとこれからどんな困難が来ても何とかやり過ごせるだろう。

 そうそう、この間、私が世界を救ったって冗談ぽく言ったら、優子、冗談としか受けとめてくれなかったっけ。あはははって笑うばかりで。


 でも、それでいいんだと思う。私の実績は私だけが覚えていればそれで。後は今もどこかで見守ってくれている、あの使徒達が覚えてくれていたなら――。




 ねぇ闇神様、今も闇の中から私を見ていますか?

 楽しくて辛くてしんどかったけど、面白い旅を有難う

 もしまた何か困った事があったらいつでも頼ってきてね

 私はいつだって旅に出る心の準備だけは出来ているから



(おわり)

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