第100話 封印の真実 その6

 闇神様はそんな私に構う事なく一方的に話を続けてきた。


(祈りの波動を感じて目覚めるが良いぞ)


(そんな事、急に言われても……)


(ならば儂の手を取るがいい)


 闇神様は混乱する私に自分の手を取れとアドバイスをしてきた。あ、もしかして、目覚めるってこう言う事?

 でもそんな事言われても闇神様の本体はどこにいるの?姿が見えなきゃ、私にはどうする事も出来ないよ。


(手?そんなのどこに……あれ?)


 そんな疑問を感じた瞬間、何か暖かい雰囲気が私の体を包む。まさかこれが闇神様の本体?私は恐る恐るこの感じられるエネルギーに触れてみた。確かに感触がある、そんな気がする。

 でも、これでいいのかな?これで私の何かが目覚めるのかな?


(そうじゃ、それでいい……)


 闇神様の本体に触れたと実感した瞬間、私の身体の中に膨大なエネルギーが流れ込んできたのを感じた。これは言葉では上手く説明し辛い。とにかく一瞬で何もかもが分かったような万能感を感じたのだ。そうして初めて感じたその感覚に驚いてつい大声を出してしまった。


「うわっ!」


「届きましたか?」


 気がつくと私の意識は現実の儀式の間に戻ってきていて、舞を舞い終えた聖光にじいっと見つめられていた。私は訳が分からなくなって、さっきまでの超感覚について言葉を漏らす。


「何あの宇宙みたいな感覚……」


「それがあなたの本質なんです」


 この自分の本質と言う言葉にさっきまでのイメージが反芻される。その宇宙のイメージの一番最初に私の求める答えが光輝いていた。そうだ、私の本質は――。


「私が、光の神……?」


「よくお帰りくださいました。私達はずっと待ちしておりました」


「ちょちょ、待って待って、だって私は……」


 私は自分で口走った言葉が信じられなかった。自分でない誰かが私の体を使って喋ったような気さえしていた。戸惑う私に一切構う事なく、彼は何かをしようとする。それが何かは分からないものの、この彼の行為は止められないのだと言う事も何故だかとっくに分かっていた。


「預かっていたものを、今お返しさせて頂きます」


 聖光はそう言って私の額に手をかざす。行為としてはそんな他愛もないもの、非接触な触れ合い。痛くも痒くもない……はずなのに。かざした手のひらから見えない力が注がれていく。それがしっかりと感じられる。注がれるのは光の神の代行者が光の神から預かっていたもの――つまりそれは、光の神の力。

 多分、それで間違っていないと思う。神様の力を注入された私はその膨大なエネルギーの洪水にただただ圧倒されていた。


「う、うわーっ!」


 気がつくと私は気を失っていて。目が覚めたのは布団の中だった。寝ている私の周りには使徒達と、聖光。ずっと寝ている姿を見られていたのかと思うと恥ずかしくなって、私はすぐに飛び起きる。私が起きたタイミングを見計らって、芳樹が声をかけてきた。


「終わったか」


「えっと、今でもまるで実感が沸かないんだけど……」


 私がまださっきまでの出来事を自分の中でうまく処理出来ないでいると、今度は龍炎が優しい声で慰めてくれる。


「でもオーラが見違えていますよ」


「そ、そっかな?」


 この言葉を聞いた私は照れくさくなって思わず頭を掻いた。照れまくる私とは別に、芳樹は同じ部屋で共に見守っていた聖光に声をかける。


「これで打てる手は全部打てた。協力、感謝する」


「とんでもない。私もやっと一族の重荷を降ろせましたから」


 この彼の言葉はさっきの力を返したって部分の事を言っているのだろう。光の神の代行者は光の神が倒れる直前に力を譲り受け、今までそれを大切に守ってきたんだ。いつか光の神そのものが転生してその力を返す時の来るその日まで――。その光の神が私って言うのがまだ信じられないんだけどね。


「私はまだ何の実感もないよ。これからどうするの?」


「それは勿論……」


 準備が全て終わったのだから、後は迫りくる脅威に立ち向かうだけだと芳樹はここで力強く宣言する。私の頭の中には儀式で取り戻した神話時代の記憶が残っている。継承したばかりでまだうまく取り出せないけど、きっとこの情報は大いに役に立つはずだ。

 いよいよ最終局面が近付いていると言う事を肌で感じながら、私は自分に出来る事を出来るだけやろうと、その想いを胸に強く刻むのだった。

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