第81話 クアルの帰還 その4

 計算以上の事が起こっている現実を目の前にしてカーセル博士は恐怖に怯え、何が何でもクアルを破壊する事を決意する。


「破壊だ……クアルは失敗作だ……ラボの全攻撃力を持ってクアルを破壊するんだ!」


「カーセル!それは……」


「実験体はまた新しく作ればいい、あいつは危険過ぎる!」


 ラボには実験体が暴走した時の為にありとあらゆる破壊兵器が実装されている。ミサイルにレーザーに毒ガスに物理的圧殺装置に……。それらを全て総動員してなんとしてもクアルを破壊しようとカーセル博士は意気込んだ。


「俺様を破壊だと!出来るものか、人間風情に!」


 結果としてどうなったか、それは全ての破壊兵器の攻撃を受けてなおかつ原型を留めているクアルの勝利に終わる。全ての攻撃を受けきった最終兵器はすぐにかざした手から破壊エネルギーを射出して、ラボの兵器を破壊し尽くしていく。

 モニターでその惨状を眺めながら確信に辿り着いたカーセル博士は、声を震わせながら辿り着いた結論を口にする。


「そうか……分かったぞ……アレは闇神の本性だ……。我々は取り込んではいけないものまで取り込んでしまったんだ」


 カーセル博士はその結論に辿り着いた後、よろよろと制御盤に近付いていく。その行動に嫌な予感を感じたニール博士が彼のしようとしている事を察して、それを止めようと動いた。


「カーセル、何を……まだ所員に撤退命令も出していないんだぞ!」


「今すぐにやつを止めるにはこれしかない!グズグズしていたら更にあいつは学習する!誰にも止められなくなってしまう!今しかないんだ!」


 カーセル博士は狂気の表情を浮かべ、ラボの最終自爆装置を起動させるために安全装置を外していく。核爆発にも耐えられるラボを完全破壊するその自爆装置は、最悪の事態が起こった時に全てを無に帰す為に用意された最後の手段だ。

 その破壊エネルギーは、小さな国を一瞬で蒸発し尽くせるほどの膨大なエネルギー量を誇っていた。


 しかし当然ながら、この自爆装置が作動すればラボ内に残ったスタッフは全員が一瞬で蒸発する。本来はスタッフが全員退避した後、遠隔操作で作動させるべきものだ。ただし、それでは間に合わないもしもの時の為に、その場で作動させる手段も用意されていた。カーセル博士はそのもしもの手段を、今ここで作動させようとしていたのだ。

 言葉では彼を止められないと判断したニール博士は、力づくでこの狂気の行動を止めようとする。


「だから待て!避難が終わってからだ!今から避難指示を……」


「それでは遅いんだよ!」


 体にしがみついたニール博士を力任せに振りほどき、カーセル博士はついに最終安全装置を解除して自爆装置のスイッチを入れる。次の瞬間、ラボは設定されていた次元エネルギー機構を次々に暴走させ、膨大な破壊エネルギーを発生させる。

 その瞬間、反転する力とそれを戻そうとする力の対消滅が発生し、ラボはその次元振動に耐えられず一気に消滅した。



 この自爆によってラボだった場所は跡形もなく消え去っていた。エネルギーの暴走を受け、流石のクアルも完全に体を燃やし尽くされる。

 しかしすぐにその脅威の復元力で自身の体を見事に復活させていた。


「ふん、この程度で……」


 ラボの消滅により完全に自由になったクアルは、空を見上げて勝利の雄叫びを上げる。その時に振り上げた右手を見た最終兵器は、見慣れない状態になっている自身の腕を見て驚愕する。


「な、なんだ……体が……」


 次の瞬間、クアルの体はぼとぼとと溶けていく。膨大なエネルギーの酷使に体が耐えきれなかったのだ。自由を得たはずの最終兵器はその場で呆気なく何か別の物質になってしまった。

 やがて高速再生の反作用で自らの身体を分解してその存在は完全に消滅する。


 こうしてラボと、その研究の成果は永遠に失われたのだった。



 この時、ハンター本部で寝かされていた私は何かを感じて目を覚ました。その何かについては全く見当もつかない。例えるなら悪い夢から覚めたような、そんな感じだった。だからだろうか、余りスッキリとした目覚めではなかった。


「あれ?」


「気が付きましたか。しおりさん」


 目が覚めた事に気付いた龍樹が優しく声をかけてくる。その声を聞いて何となく状況を察した私はむくりと起き上がり、見守る彼に声をかける。


「さっき何かすごく悲しい感じがしたんだけど、どうしてかな」


「さあ?とにかくあなたの意識が無事に戻って何よりです」


 やがてダメージを受けていた他のメンバーも次々に意識を回復させていく。復活した私達はそのままハンター本部のハンター達のお世話になる事となった。

 無事に回復したと言う事でささやかな宴まで開かれ、私達は多少の居心地の悪さを感じながらそのおもてなしを有難く受けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る