光の聖地へ
最後の旅立ち
第82話 最後の旅立ち その1
使徒達が回復したところで私たちは今後の行動について話し合いを行う事になった。いつまでもハンター本部でお世話になる訳にも行かないしね。本部の一室にある会議室みたいな部屋では私達とハンター本部からはリーダーの龍樹と鬼島が同席する。
そうして私の一言から話は始まった。
「これからどうしよっか」
「そうですねぇ~」
龍炎が腕組みをしながら相槌を打った。本当にここから先の事なんて何も考えていなかったから、そんな簡単に言葉は出てこないよね。中々議論の始まらない中、ずっと何かを考えていたらしい有己がここでぶっきらぼうに声を上げる。
「って言うか、あのバケモノ、あのままにしておいていいのか?」
「それは今は考えないでおきましょう。もしまた襲ってきたならその時に考えればいいんです」
その話を龍炎がやんわりと制止する。あんなバケモノ、現時点で誰も敵わなかったのに今更何をする事も出来ないでしょ。まさか有己、今からアイツを倒しに行くとか言い出さないでしょうね?
で、その言い出した彼なんだけど、さっきの龍炎の言葉にあからさまに違和感を抱いている。
「そんな楽観的でいいのか?あれが研究の末に生み出されたものなら量産されるかも知れないんだぞ。そうなったら……」
「なったら?」
いきなり真剣な顔になって言葉をつまらせた彼に私はゴクリとつばを飲み込んで続きの言葉を催促する。
「なったら怖いじゃねーか」
「あはは……」
怖がっている有己に私は思いっきりずっこけた。同じ発言を聞いた龍炎も苦笑いをしている。このやり取りで会議室はリラックスした雰囲気になった。うん、あんまり深刻な感じのままだといいアイディアも出ないよね。
クアル関係の話題は私達にはどうしようもないと言う事で、ここである程度の情報を掴んでいたハンター側の責任者が口を開く。
「取り敢えずあの実験体の事については私達に任せてください。出来得る限りの情報を集めますので」
「分かった、そっちは龍樹に任せる」
そう話した龍樹の言葉を芳樹が容認する。それを横目で眺めていた有己が突然激高した。
「いいのかよ!こいつは……」
「いいんですよ。もう敵ではないんですから」
「龍炎、お前!」
どうやら3人の使徒の中で有己だけがまだハンターと和解していないっぽい。まぁ、あんまり物分りがいい方ではなさそうだからなぁ。捕まっていた使徒も全員無事に開放されたし、捕まえていたのにもちゃんとした事情があったんだから大人しく水に流せばいいのに……。
彼の暴走でこの話し合いが失敗に終わるのは嫌だったので、私はそれを止めようと椅子から立ち上がった。
「ちょ、ここで喧嘩はやめてよ!有己も、もういい加減ハンターを敵認定するのは止めて!」
「そんなすぐに考えを変えられるか!信用出来ないんだよ俺は!」
確かに有己の気持ちも分からなくはないけど……。助けてくれたのは事実だしね。認識は改めていかないとだよ。散々言われているのにも関わらず、ハンター側のリーダーは何もせず、ただ苦笑いしながら私達の方を見つめていた。
「はは、まぁ仕方のない話です。信用は無理でも話は聞いてくださいね」
「ま、助けられたしな。仕掛けてこない限りはこっちも手は出さない。それでいいだろ?」
「はい。それで十分です」
一応有己にも筋を通す気持ちはあったようで、デタラメに敵意を持っている訳でもないみたい。その言葉を聞いて私も安心したよ。結局、ただ気持ちを吐き出したかっただけなんだろうな。
と、険悪な雰囲気が戻ったところで私は改めて話を進める。
「じゃあ話を戻すけど、私達はこれからどすれば?」
「もう時は最終段階に進みました。そろそろ動いていいと思うんです」
私の言葉に龍樹が意味深な言葉を言い始める。どうやら彼には何か進めたい話があるみたい。私はその意味ありげな言葉の真意を確認する。
「動くって?」
「闇神様を封じた張本人の元へです」
彼はそう言うとニッコリと意味ありげな笑みを浮かべる。この言葉にすぐに反応したのは有己だった。
「天神院家か!」
「はい」
龍樹はまるでクイズ番組で見事に正解した回答者を見る司会者のような笑みを浮かべる。同席する他のメンバーもみんな有己の発言した言葉の意味は分かってる御様子。この中で話が理解出来ていないのはどうやら私だけみたい。一体どう言う事?
「ちょ、話が見えないんだけど?」
この私の疑問には物知りで物腰の落ち着いている龍炎が答えてくれた。やっぱりこう言う時に頼りになるのは優しいお兄さんキャラだね。
「天神院家と言うのはですね、我が主を封じた神職の末裔の家系なんです」
「えっ?闇神様って、神様なのに人間に封印されたの?」
「はい、実はそうなんです」
「ええ~」
今初めて知る闇神様封印の真実!……いや、もしかしたら前にも聞いていたかも知れないけど……。そう言えばハンターは使徒を倒す組織とか言われていて、その大元の闇神様にはあんまり執着していなかったな。そっか、最初から管轄が違っていたんだ。
とは言え、人間に封印されるなんて闇神様ってもしかして結構弱いんじゃ?と、私がそんな疑問を抱いていると、その想いが顔に出ていたのか有己が率先してその辺りの事情を私に説明する。
「勘違いするなよ、主が弱い訳じゃない。そもそも天神院家は光の神の地上代行者なんだ。だから神と等しい力を振るう事が許されている。その上で闇の力の弱まった昼間に主は封印されてしまった」
「そもそも何でそんな事になったのよ?」
有己の説明にツッコミどころが出てきてしまった私はそれを追求する。これには龍炎が答えてくれた。
「私達もその理由について詳しい事は……。一説には昼だけでなく夜も支配しようとしたとか、そんな物騒な話も伝わっています」
「私どもハンターはそれを阻止するために生まれた組織なのですよ」
龍炎の説明に続き、龍樹がその流れでハンター組織設立の真相について語ってくれた。なるほど、全てはそう言う繋がりだったのね。まだよく理解しきれていない気がしないでもないけど。
でも大体の流れが分かったところで私の中にひとつの大きな、根本的な疑問が思い浮かんだ。
「でも、そんな所に行って大丈夫なの?」
「天神院家の動きは全く読めません。そもそも何故闇神様が出てこられたのか分かりますか?天神院家現当主の天神院聖光自らが封印を解いたと言う話なんです」
「え?何で?」
闇神様を封じた一族の当主が自ら先祖が封じた封印を解き放った……。普通に考えてそれは有り得ない訳で私の頭に中にはてなマークがくるくる回る。
この質問の答えはここに集まった誰も持っていないようで、そこで有己がぶっきらぼうに言い放つ。
「それが分かったら苦労しねーよ」
「あ、だからそこに行こうって事なんだ。封印を解いてくれたんだし、悪い人じゃないんだよきっと」
「悪い奴じゃなかったら何で今まで俺達の前に姿を表さなかったんだ?敵じゃないにしても味方でもないぞ」
私の楽観的な考えを有己の疑問が打ち消した。ああ、言われてみれば彼の言う事も一理あるか。封印を解いた闇神様が私に宿って、その後もこんな冒険を繰り広げていると言うのに、今まで全く接触がなかったのは確かにちょっと変だよね。
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