再来襲
第48話 再襲来 その1
そんな訳で謎の敵も取り敢えずは撃退したと言う事で、現場では安堵した空気が漂っていた。緊張感が解かれると平穏な日常の感覚が戻ってくる訳で。
私はこの微妙な空気感をリセットさせようと目の前の使徒2人にあるひとつの提案をする。
「まぁ、取り敢えず危機は脱した事だし」
「事だし?」
やはり最初に食いついたのは有己だ。お互い、もう付き合いも結構長いしね。と、言う訳で早速本題を口にする。
「お腹空かない?」
「おま……まぁいいけど」
私の発言に有己は一瞬気を悪くしかけたけど、どうやら理解してくれたらしい。
でもまだ2人共この場から動く気配がなかったので、私は大袈裟なジェスチャーを加えて積極的に訴える事にした。
「敵が襲って来ない内に腹ごしらえしようよ!今しかないよ!」
「分かったよ、でもどこにする?」
「出来るだけ早く食事を済ませたいところですね……」
この訴えでようやく話がまとまり、私達は食事をする流れになった。龍炎のリクエストを受けた私はすぐに適切な回答を弾き出す。
「じゃあさ!うどん屋さんにしよう!セルフの!」
「うどんかぁ~。まぁ確かに早くは食べられるな」
「でしょ」
龍炎の言葉に答えたのに何故か一番に反応したのは有己だった。流石腹ペコマンだね。ま、彼の機嫌が悪くなさそうだったのはいい事だよ、うん。
ワンテンポ遅れて龍炎も私の考えに同意してくれたみたい。ニコニコ笑顔で彼も口を開いた。
「ではそうしましょう。確かこの街にも全国展開をしているお店があったはずです」
「善は急げだね!」
この数日の間に散々街を歩き回ったおかげで龍炎はこの辺りの地図が頭の中に入っているらしい。自動マッピング機能が標準搭載だなんて流石は使徒だね。人間でもそう言う才能のある人はいるんだろうけど。
彼の案内でそのお店に向かう間、暇だったので私は一緒に歩いている2人に話しかけた。
「……そう言えばさ、有己、闇の道を抜けたのに腹ペコマンに戻らないんだね」
「ああ?それはもう十分闇の力のストックがあるからだよ」
「ふーん」
何故だか有己は私に話しかけられるのがあまりお気に召さならしい。不服そうな態度で返事をされたから、私の気持ちも萎えちゃった。
でもそれがまた彼の気持ちを逆なでしてしまったようだった。
「てめ……、実はあんまり興味ないな?」
「まぁね~」
それでも有己とはもうずっと一緒に行動してきた仲だし、もうそんな気を使う事もないだろうと私は素の気持ちをそのまま態度で表現する。頭の後ろに手に組んで返事を返すと、彼は声を震わせながら言葉を返した。
「なんて奴だ……主の宿主じゃなかったらポカポカ殴ってたところだぞ」
「おー、怖。残念でした~」
私が調子に乗った反応をした次の瞬間、それが気に障ったのか突然有己の拳が私に向かって振り落とされそうな雰囲気になる。
「このっ……」
「止めてください!彼女の中には主がいるんですよっ!」
その気配を察した龍炎がとっさに彼を止めてくれたおかげで、私は暴力を身に受ける事なくその場をやり過ごす事が出来た。その時、私は身をすくめていたんだけど、拳が飛んで来ないのが分かってすぐに止めてくれた彼に手を合わせて頭を下げていた。
と、そんなやり取りをしている間に私達は目的のうどん屋さんに辿り着く。見慣れた店舗を見上げた私は思わず一言こぼした。
「あ~やっぱり、どこのお店も同じだね」
「そりゃ、全国チェーンだものな」
機嫌が治ったのか、私のつぶやきに有己が言葉を続ける。このうどん屋さんは本場の味を自称していて、食事時には結構な人気になる庶民に愛されるお店だ。
けれど今は混雑のピークから時間がズレていた為、繁盛時の賑やかさは全く感じられなかった。
「でも良かった!今はそんなに並んでないよ!」
「すぐに食べられそうで良かったですね」
すぐに食べられる幸せを噛み締めながら私達はうどん屋さんに入っていく。使徒2人にこのうどん屋さんの注文システムは理解出来るのかと最初こそ少し不安になったものの、実に意外な程に彼らはこのセルフのシステムを熟知していた。
「え~と、温釜玉の並で!」
「俺は温ぶっかけの大盛り!」
「私は……温釜揚げの大をお願いします」
私がお手本にと最初に注文すると2人も欲しいメニューを次々に注文する。それは実に手慣れたものだ。つまり2人共セルフのうどん屋さんには何度か足を運んだ事があるのだろう。色々と教えたい気分になっていたのにそれが出来なかった私は、少し複雑な気持ちになっていた。特に有己なんてネギと天かすをまるで親の敵のようにこれでもか大量に乗っけている。一緒にいた私はちょっと恥ずかしくなっちゃったよ。
それぞれが注文した各種うどんと添え物の天ぷら、それとネギと天かすを乗せて私達は開いている席に座る。空いているので席は選び放題だ。繁盛時だったら全員でまとまって座れたかどうか。改めてズレた時間帯にちょうど暇が出来て良かったよ。
「さ、頂きましょうか」
「だな」
「頂きまーす!」
3人3様の食事前の挨拶をして楽しい食事の時間が始まった。私は注文した釜玉うどんをすすりながら早速口を開く。
「あの敵もいつ来るか分からないけど、3人目の使徒の方もアレだよね」
「アレって何だよ」
私の言い方が抽象的だったのが気に食わなかったのか、すぐに有己が反応する。このツッコミを予想していなかった私は返事に言葉が詰まってしまう。
「アレって言うのは……アレだよ!えぇと、は、早く見つかって欲しいって事!」
「そうですね、ええ、全くです」
シドロモドロに答える私の言葉を聞いて、龍炎が釜揚げうどんをすすりながらうんうんとうなずいてくれて私はほっと胸を撫で下ろした。私の言ったアレの意味が分かった有己はずるずるっと麺を勢い良く吸い込むと胸を張って自分の考えを口にする。
「それは多分大丈夫だ、きっと作戦はうまくいくから」
「どこからそんな自信が出てくるのやら……」
きっぱりと断言する口調に私はついツッコミを入れてしまう。この言葉を聞いて激高するかなと構えていると意外や意外、有己は割と冷静だった。
落ち着いてうどんの汁をごくんと飲むと、普段通りの口調で私に話しかける。
「今までだって上手く行ってただろ?」
「それは偶然じゃん。今後もそう出来るって保証は……」
有己のその雑な理論に一言言いたくなった私はつい正論を口にしてしまう。
けれど、その言葉を全て言い切る前に彼はボソリと何処かで聞いたような格言っぽい言葉を口にした。
「あのな、偶然ってのは必然なんだよ」
「また訳の分からない事を……。まぁ、その言葉の通りになればいいけど」
その謎の説得力に私は返す言葉を失ってしまう。黙ってしまった私を前に有己はドヤ顔でトドメの一言を私に向けて真顔で告げる。
「俺を信じとけって言うんだ」
「はいはい、信じます信じます」
その言葉を前にしては何を言っても無駄だなと確信した私は適当に彼の話に合わせる事にする。援護射撃を期待した龍炎はずっとニコニコした顔をして会話をする私達を眺めるばかり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます