第47話 迫りくる悪意 後編

 小さいながらもそれはそれぞれが独立して動いていて、やっぱりキモかった。27号の造形は前に現れた実験体に比べたらもっと生物に近く、キモさは薄かったけれど、この吐き出されたミニ実験体は前に現れた実験体をそのまま小さくしたみたいで正直苦手な人が見たら発狂しかねない程の光景が広がっていた。

 その光景を眺めていた龍炎は興味深そうに上空からこちらに向かって降りてくる実験体群体の感想を述べる。


「ほう、まるで蜘蛛の子ですね」


「感心してないで、最初から本気で行くぞっ!」


 有己の掛け声に戦闘態勢を取り直した彼はすぐにこの厄介な敵達に攻撃を仕掛ける。


「暗器!宇津保!」


「闇斬剣、残照!」


 有己も龍炎の後にすぐに続く。お互い、いきなり最終奥義に近い技でこの実験体共に攻撃を仕掛けていく。


「いけーっ!やっちゃえーっ!」


 私は物陰に隠れながら彼らを応援する。ミニ実験体は攻撃力防御力共に本来の実験体とは雲泥の差があり、使徒2人の攻撃にサクサクと撃退されていく。

 それは傍観している私から見てもすごく気持ちの良いものだった。戦闘は一方的な虐殺で終わり、無数のミニ実験体は1分とかからずに全て排除された。


「結構、呆気なかったですね」


「まぁ相手も本体じゃなかったからな」


 結局使徒2人は空から降ってくるダミー実験体を全て倒したものの、肝心の27号本体は取り逃す結果となってしまった。2人が邪魔するように降って来たミニ実験体を全滅させた後、空のどこにも27号の姿は見つからなかったのだ。


 騒ぎが収まり、恐る恐る顔を出した私はさっきまでの状況に対して疑問を訴える。


「アレは一体……」


「少なくともハンターが絡んだものではないな、もっと別の勢力からの刺客……」


「もしかしたら海外からの攻撃かも知れませんね」


 有己も龍炎もさっきの敵はハンターからのものではないと断言する。私が気になったのは龍炎の語った言葉だった。その内容に驚いた私は思わず彼に言葉をかける。


「か、海外?」


「確か私達を研究しようとしている団体がいると言う話を聞いた事があります」


「何だよそれ……敵はハンターだけでうんざりしてるのに」


 どこで情報を仕入れたのか、龍炎は海外の研究組織の事も知っているようだった。彼の言葉を聞いた有己はため息を漏らして面倒臭そうに返事を返す。

 戦闘終了後もずっと空を見上げていた龍炎は未来を見通すかのようにポツリと言葉を漏らした。


「どちらにせよ、アレはまたすぐに来ますよ」


「ああ、多分俺達使徒の数が増えたんでビビったんだろうな。次はそれを踏まえてやってくるんじゃないか?」


 龍炎の予測に有己も同意した。そんな使徒2人の言葉を聞いた私は思わず声を上げる。


「そんな、怖いよ!」


「怖くてもやるしかねーだろ!」


 私の言葉を聞いた有己は逆ギレしたみたいに声を荒げた。その乱暴な言葉遣いにまたしても不安を覚えた私は渾身の大声で希望を訴える。


「3人目の人!早く来てくれーっ!」


 この訴えを聞いた有己は冷めた口調で突っ込みを入れる。


「いや、俺達だけで何とかするって」


「仲間は多い方がいいに決まってるでしょ!」


 彼の言葉を聞いた私はすぐに反論する。相手が対策をとる為に一旦退却したのなら、もし次現れたとしてその時は相手も相当手強くなっているに違いない。そんな想像をしてしまったらもっと強い戦力を求めてしまうのもこれまた自然な流れじゃないの。


 同時刻、ラボでは早速ダミーからの情報が届いてた。ニール博士はすぐにカーセル博士に報告する。


「ダミーからのデータが来たぞ」


「有効情報が少し足りないかな……、想定より相手が強かったようだ。仕方ない、ここから予測して調整するしかないだろう」


 ダミーから送信されたデータを解析しながら博士はつぶやいた。その言葉を聞いたニール博士はその現状に対して疑問を呈す。


「実験体の余力は十分あるのか?」


「それは問題ない、設計上、実験体には常に余裕を持たせてある……が、ギリギリだな」


 ギリギリと言う彼の言葉にニール博士はもう一度確認の言質を取る。


「それで行けるのか?」


「今の技術上、これで行くしかない。なぁに、きっとうまくいく」


「お前がそう言うのなら信じよう」


 何だかんだ言って親友を信頼しているニール博士はその言葉を信じる事にしたようだ。話がまとまったところでカーセル博士は元気良く実験の再開を告げる。


「よし、再開だ!我が研究所に真実の光を!」


「光を!」


 そうしてラボでは27号の再調整が始まった。突貫で続けられるその作業をする2人の博士の瞳はまるで少年のように輝いていた。


 舞台を戻して私達のいる某県某市、どうしても不安が拭えない私は少しでも戦力を増強すべきだと有己に主張する。


「ねぇ、眷属を呼び戻した方が良くない?」


「俺達を信用しろよ!あんなの俺達だけで大丈夫だ」


 強がりなのか自信の現れなのか、有己は私の提案を勢い良く却下した。そうしてその言葉を聞いた龍炎も彼の言葉に続く。


「そうです、任せてください」


「りゅ、龍炎さんがそう言うなら……」


「ちょ、俺も信用しろっ!」


 有己は自分の言葉だけでは受け入れなかった私に対して逆ギレする。そんな事言われたって彼より龍炎の言葉の方が信用出来るから仕方がないんだな。

 信頼してもらいたかったら普段の言動から気をつけなきゃだよね、うん。


 それからしばらく有己の機嫌は悪いままだった。後でフォローの言葉はかけたんだけど彼、全然聞く耳持たなくて……。ああもう面倒臭いなぁ……。

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