第49話 再来襲 その2

 変に誤解されているような気もしつつも、何も言わない為、何ひとつ説明出来なかった。そうして気がつくとみんなうどんをすっかり食べ終わる。ま、仕方ないか。


「ふー、まんぷくぷー」


「いいおうどんでした」


「俺はまだ食べ足りないなぁ……」


 すっかりうどんを完食した私達はそのままお店を後にする。私と龍炎はこの食事に満足していたのだけれど、腹ペコマンの有己はまだ食べ足りないようだった。流石は腹ペコマンだと私は彼の言動にちょっと笑う。ついでに面白かったのでちょっと軽口を言ってしまった。


「あ、じゃあ有己だけもう一回食べとく?」


「むう……まぁいいや。別に死にそうな程腹ペコって訳でもないし」


 からかわれているのが分かったのか有己はちょっと顔を横に向けながら恥ずかしそうに返事を返していた。こう言う反応は人間と一緒なんだよなあ。

 それで、お腹も満たされた事で次は今後の事を考えないといけない。こう言う話はやっぱり有己より龍炎とした方がいいだろう。


「これからどうしよっか」


「そうですね、いつ敵が襲ってくるか分かりませんし、人混みは避けた方がいいでしょうね」


 彼のアドバイスにより、私達は一端使徒探しは諦め、あの謎の敵対策を優先すると言う事になった。勿論有己も反対しなかった。って言うか今の彼の頭の中はあの敵を倒したい気持ちで一杯になっているらしく、この話に率先して従って行動していた。


 そう言う場所に心当たりのある龍炎がまたしても先頭になって私達を導いていく。その都合のいい場所に歩く道中、重い沈黙に耐えきれなくなって、何でもいいから話さなくちゃと思った私は取り敢えず今一番気になっている事を口にする。


「あの敵さ、すぐに戻ってくると思う?」


「それは分かりませんが、少なくとも必ずまた襲ってくるのは間違いないでしょう」


 私の質問に龍炎はそう断言した。あらやだ、ちょっと怖い。その言葉を隣で聞いていた有己は鼻息荒く言葉を続ける。


「今度こそ返り討ちにしてやる!」


「でも次あいつが現れたら間違いなく対策してくるだろうから油断は禁物だよ!」


 その口調からすでに勝つ気でいる彼に私は忠告する。こう言う油断が元で窮地に陥ったりするのは物語のセオリーだからね。すると有己は私の方にその真剣な顔を向けて全力で言い切った。


「油断なんかしねーよ!」


「ええ、全力で叩き潰します!」


「た、頼もしいなぁ……」


 彼の強気発言に龍炎も同調する。その強い圧に抗えない力を感じた私はもう言葉を濁す他ないのだった。


 その頃、ラボの方では対使徒用攻撃力を単純に2倍にした実験体27号の調整が終わろうとしていた。27号のエネルギー許容量の関係もあってこの調整もそんなに簡単なものではなかったものの、カーセル博士の天才的な指導によって普通なら3日はかかるその調整を数時間で完璧なものに仕上げていた。


「ふう、調整は済んだぞ!」


「では、再出撃だな。ターゲットの位置情報は?」


「ああ、どうやらあのエリア内にまだいるようだ。あの場所で何かを探しているのかも知れない」


 博士の質問に追跡担当のニール博士は位置情報を伝える。情報を聞きながら手を動かしていたカーセル博士は少し不機嫌になりながら口を開く。


「ターゲットの事情なんてどうでもいい、まだエリア内にいるんだな?すぐに送り出すぞ」


 博士にとってターゲットの事情は余計な情報らしい。正しい位置情報が分かればそれで十分のようだ。コントロールパネルを操作すると、それに合わせて自動的に27号はまた現地向けて自動的に運ばれていく。その様子をガラス越しに見つめながら、2人の博士は邪悪に微笑むのだった。


「ふふ……もうすぐだ、もうすぐ夢が叶う……」


「ああ……。今からそれが楽しみだな」



 龍炎が提案した人のいない場所とは、時期外れの海岸だった。確かにシーズン以外の浜辺はほぼ人もいない淋しい場所だ。だからこそあの謎の敵を向かい討つにはとっておきのロケーションとも言える。現地に着いた私は吹いてくる潮風を全身に浴びながら腕を伸ばして深呼吸をする。


「ふぅ~見晴らしがいいね~」


「ここなら戦いやすいな」


 さざなみが聞こえるだけの浜辺に立ちながら、有己もこの場所に満足しているみたいだった。海岸は結構広く、ここなら自由に動き回れそうな雰囲気もあって派手な戦闘になっても問題はなさそうだ。

 ただ、場所は悪くなかったものの、全く不安がない訳でもなかった。


「ねぇ、敵と戦う為にここに来たのはいいけど、敵がすぐに来なかったらどうするの?」


「勿論、来るまでここで待つんだよ」


「うへぇ~」


 有己の頭の悪そうな根性論を耳にした私は思わず頭を抱えてしまう。

 でもそれは仕方のない話だった。相手が勝手に襲ってくると言う形な以上、こちらから討って出ると言う訳にも行かない。私達に出来るのは、出来るだけ自分達に優位な場所で待ち構える事だけなのだ。分かってはいるけど、こう言うのって何かもどかしい。


「そんなに待たなくて済むかもですよ。大体、前に襲って来た時、私達は敵の本体にはダメージを与えていないのですから」


「あ、そっか。きっと何か調整的なものをするだけでまた襲って来そうだよね」


「私はそう思っています。再戦は近いですよ。早ければ……」


 龍炎のこの推測に、私は緊張感のあまり思わずごくりとつばを飲み込みながら聞き返した。


「早ければ?」


「遅くとも今日中には攻撃が来ますね!」


「うわあ……」


 それが約束された未来だとしても、改めて宣言されるとやっぱり怖くなる。そんな私の言動を目にして苛ついたのか、有己が顔を鬼のようにして声を荒げた。


「だから、安心しろって言ってるだろ!さっきから!」


「100%安心出来るなら安心してるって!」


 彼の怒号に反応するように私も大声で反論する。それでも納得出来ていないのか有己は不服そうな顔のままだった。


「一体何が不満なんだよ?」


「敵の正体が分からないから怖いんだよ、分かるでしょ?」


 理解の浅い彼にはもうはっきり言うしかない。ここまで分かりやすく説明してやっと有己も私の不安の理由を納得したみたいだった。


「どんな敵でも倒してやるって!」


 結局理解したところで同じ言葉しか返って来なかったので、もう私は諦めて彼の言葉に合わせる事にした。


「……まぁそうだね。しっかり私を守ってよね」


「任せとけ!」


 私達のこの会話をニコニコと笑いながら眺めていた龍炎は話が落ち着いたところで、どちらに向けて話すでもなく、つぶやくように口を開く。


「ふふ、2人は仲がいいですね」


「そう見える?」


 その言葉を聞いた私は彼が誤解している気がして皮肉っぽく言葉を返した。続けて有己も龍炎の言葉を否定する。


「こいつはただの宿主なだけだ」


「じゃあ、そう言う事にしておきます」


 私達の弁明を聞いても彼はその胡散臭い笑顔を変えずに返事をする。う~、もう、どう言ったら分かってくれるんだろう。私と有己はただ流れで一緒にいるだけだって言う事を。


 それからは変に意識してしまってお互い会話が続かなくなってしまう。

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