第37話 闇の道ドライブ その3
昔懐かしいラーメン屋さんはメニューも昔懐かしい感じだった。定番のメニューしかないのを確認した私は結局有己に同調する形になってしまう。
「うーん、特に珍しいのもないし私も普通かな」
「じゃあ全員同じでいいですね」
ここで空気を読む龍炎も同じメニューを選択し、みんなノーマル醤油ラーメンを食べる事になった。そりゃみんな同じメニューの方がメニュー差による時間差問題も起こらないだろうし、賢明な選択ではあるよね。
でも、もしここで美味しそうな珍しいメニューがあったら私だったら迷いなくそれを頼んでいただろうな。ここが昔ながらのお店で良かったのかも。
流石にお客さんのいる前で闇神様関係の話は出来ないので、必然的にみんな黙って待つ事になる。しばらくぼうっと待っているとやがて注文したラーメンがバイトらしきおねーさんによって運ばれて来た。
「お待たせしました、ラーメン3つです」
目の前に出されたそのラーメンはシンプルイズベスト。必要最低限のものがしっかり入っていて、美味しそうな香りを放っている。もう食べる前からよだれが出て来そうで、ついつい食べる前にその味を想像してそれを口に出してしまっていた。
「おお、シンプルだけどその分深みのありそうな感じ」
「そう言うのは食べてから言えば?」
私の食前レポに向かい側に座った有己が早速ツッコミを入れる。全く、野暮だねえ。食事は運ばれて来た時点から始まっていると言うのに。
それはそうと、余りここで何度も突っ込まれるのもいい気はしないので早速私はこのラーメンを食べる事にした。
「わかってるよ。いただきまーす!」
「へぇぇ」
ラーメンを食べようとした私を、隣りに座った龍炎が興味深そうに眺めながら感心したように口を開く。私はその言動の意味が分からなくて、食べる手を休めてそう言った理由を訪ねてみる事にした。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、最近の子ってみんな食べる前に料理の写真を撮るものかと思っていたもので」
私の質問に彼は静かなほほ笑みを浮かべたままそう答える。龍炎って意外と最近の世情に詳しいんだ。私は彼の言葉に感心すると共に、自分のポリシーを話す事にした。
「私、そう言うのやらないです。送る友達もいませんし」
「あっ、すみません」
私の言葉をすぐに察して龍炎は謝った。こう言う所、有己も見習って欲しいよ。私がそう思っていると、目の前の彼はラーメンをもりもりと勢い良くすすっていて、満足げな顔をしながら大きな声でこのラーメンの味を褒め讃えていた。
「うめえ!おっちゃんこれ最高だよ!」
「有己ってば」
そんな彼の態度を見た私はちょっと呆れていた。でも大食漢の有己らしい気はして何だか憎めない。そんな彼の言動を龍炎が解説する。
「彼は彼なりに気を使ってるんですよ」
湿っぽい雰囲気を一掃した有己の意図は私も分かっているつもりだった。そんな彼の食べっぷりに動かされるように私もラーメンに箸をつける。
「あ、本当だ。美味しいねこれ」
口に入れたそのラーメンの味は見た目と同じくシンプルで懐かしくて――そして何よりも美味しかった。龍炎も私に同調するように感想を述べる。
「作り手の愛情が料理にしっかり伝わっている感じがしますね」
そんな感じで目の前のラーメン丼は全員瞬く間に空になり、私達は満足してラーメン屋さんを後にした。
「ふー、まんぷくぷー」
「じゃあ、旅の再開と行きますか」
店を出た私達は流石に街中で闇の道に戻る訳にも行かないので、人気のない場所まで徒歩で移動する事にした。歩きながら街の景色を眺めていた私は、誰に言うでもなくポツリとつぶやく。
「ここがどこの街か知らないけど、この景色はきっと忘れない気がするよ」
「ああ、ラーメン美味はしかったしいい街だった」
私のつぶやきに呼応するように有己もまた街の感想を口にする。彼らしいそのつぶやきに私はぼそっとツッコミを入れる。
「有己は単純でいいよね」
「長く生きているとシンプルになるものなんだよ」
その言葉が気に入らなかったのか、有己はふてくされた顔をしながら言い返した。
街の外れの誰もいない空き地まで歩いて来た私達は周りをよく確認する。それが終わってみんなでうなずくと龍炎はおもむろに手を儀式的に動かして闇の道を開いた。さあ、使徒探しの後半戦の始まりだ。
闇の道の中で律儀に私達を待っていた乗り物眷属に乗り込むと早速また高速で目的地へと進んでいく。眷属に乗って早々、私は龍炎に気に質問する。
「後どれくらいかな?」
「感覚ですけど、後3時間もあれば近いところにまで行けるはずです」
「3時間かぁ、着いたら起こしてね」
ご飯を食べた後は眠くなる。それは自然の摂理だ。と、言う事で私は残り時間たっぷり昼寝をする事にした。3時間と言う時間もちょうど良かった。これが2時間以下だとしっかり眠れないかも知れないし、4時間以上だと熟睡して逆に疲れてしまうかも知れない。昼寝から覚めたらちょうど目的地、それが実にベストな感覚だった。
乗り物眷属は私ひとりが寝転がるのにちょうどいいスペースはあったし、闇の空間は気温が適温に調整されていて暑くも寒くもない。もうこれは昼寝してくださいとお願いされているようなものだった。
そんな訳で私はゴロンと横になったんだけど、その時前を見ていた有己は後ろを振り返って私が本当に寝ているのを見て声を上げる。
「ちょ、おま、ここで寝るのかよ!」
「だって暗いし、暇だし、食事の後だし……。それとも何か問題が?」
「いえ、寝ていていいですよ。その間に私達がちゃんと起きていますから」
ちょっと怒っている有己に対してこの計画の発案者である龍炎は穏やかな微笑みを崩さずに私の行為を認めてくれた。う~ん、これが大人の余裕ってヤツなんだろうな。同じ時間を生きているはずなのに有己は本当に余裕がないったらありゃしないよ……。
「全く、龍炎はしおりに甘いなぁ」
「お許しも出た事だし、あとは任せた!おやすみなさい」
龍炎の許可を得た私は堂々と昼寝を決行する。乗り物眷属の背中って意外と寝心地がいい。生きているのでほのかに暖かくて適度に弾力があって横になってまぶたを閉じた次の瞬間にはもう私は夢の世界へと旅立っていた。
「あ~あ、本当に寝ちまった。度胸があるんだか何も考えていないんだか……」
「流石ですね」
「まぁ、我が主が宿るくらいだからな」
2人の使徒が横になった私の感想を言い合っている頃、熟睡した私は深い眠りに落ちていた。深く眠り過ぎて夢も見ないくらいだった。
そう、もうそろそろお告げの為に声をかけて来そうな私の中の闇神様の声も聞こえないくらいにしっかり眠ってしまったのだ。
「おい、起きろ、そろそろだぞ」
「はぇ、早いね」
私が眠っていた間の3時間は何のトラブルもなくあっと言う間に過ぎていた。有己に起こされて目を覚ましたのは私にとっては一瞬の出来事だった。
「全く、まさかずーっと目を覚まさないとは思わなかったよ」
あんまり気持ち良く熟睡していたので、それについて彼は皮肉たっぷりな感想を私によこす。そこでふと疑問を感じた私は彼らに質問する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます