第36話 闇の道ドライブ その2
それからも私が何か言ってその答えに有己が切れてのパターンが続く。この道中、他にする事も特にないので会話だけが唯一の暇潰しだった。
周りが暗いと時間経過も実感出来ない。そんな時に頼りになるのが腹時計だ。空腹を感じた私はそれとなくそれを口にする。
「ああ~お腹すいたあ。もうお昼なのかな」
「俺らは闇が濃いからここじゃ腹減らないけど?」
「だから、使徒と人間を同列に語らないで……」
いつも腹ペコマンな有己の癖に、自分が優位な立場になるとその頃の自分の気持ちは忘れてしまうらしい。この彼の態度に私は失望していた。
逆に私の空腹の気持ちに理解を示してくれたのは龍炎の方だった。彼は優しく語りかける。
「じゃあ、ちょっと寄り道しましょうか。食事も大切です」
「いいのか?一気に目的の場所に行った方が……」
「腹が減っては戦は出来ませんからね」
折角食事の流れになったのにそれに有己は茶々を入れる。そんなに一気に行きたいなら2人で行ってよって言葉が喉まで上り詰めていたけど、有己の言葉を華麗にスルーした龍炎に免じてここは黙る事にする。
それにしても彼は紳士だなぁ。会って間もないけど龍炎は信頼出来そうだよ。
「龍炎さん、有難う」
それから龍炎は何らかの仕草をして空間に穴を開ける。次の瞬間には私達は現実の世界に放り出されていた。まさかこんな展開が待っていると知らなかった私は空中に投げ出された瞬間に驚いて声を上げていた。
「うわっ!」
「大丈夫ですか?お姫様」
混乱する私を抱き止めてくれたのは龍炎だった。彼は素早く私をお姫様抱っこしてそのまま地上に着地する。
「だだだ、大丈夫ですう」
混乱したまま何も考えられなくなった私は龍炎の呼びかけにテンパった返事をするので精一杯だった。ずっと彼に抱きかかえられたままの状態の私の姿を見ていた有己はちょっと皮肉っぽく話しかけて来た。
「いつまでそうしているつもりだ?」
その言葉を受けて龍炎は私を優しく下ろしてくれた。全く、この態度を有己も見習って欲しいものだよ。降ろされて私は改めて飛ばされた方角を確認するように振り返った。
見たところ次元の穴はもう塞がっていたけど、何もない空間からいきなり人が放り出されるってもし誰かに見られていたら今頃ちょっとした騒ぎになっていただろうな。すぐに周りを見渡して人気がないのを確認した私は安心してホッとため息を漏らしていた。
そしてすぐにある事が不安になった私はその事について聞いてみる事にする。
「って言うか、かなりの高さから飛び降りたけど、戻る時はまた飛び上がらないといけないの?」
一瞬の出来事だったので感覚だけど、この時私達は軽く5mくらいの高さから飛び降りた感じだった。さっきまで乗っていた乗り物眷属は闇の道に留まっているみたいでここからは姿が見えない。私の質問に龍炎はにこやかな笑みを浮かべたまま説明をしてくれた。
「いえ、また入る時は手元で道は開けられます。ただ闇の道から出る時はどうしても座標にずれが生じてしまうんです」
「へぇぇ、結構面倒なものなんだね」
彼の説明によると道の高さが闇の中では分からないため予め結構な高さをキープして闇の道を作っているとの事だった。確かに出現地点が結構な高地だったら闇の道を開けたところで土の中になってしまうもんね。
そう考えると闇の道を進むのにも結構リスクが有るものなんだと私は認識を新たにする。そんなやり取りを横目で見ていた有己は業を煮やして口を開く。
「それよりもどこに食べに行くんだ?あんまり長居していると奴らに見つかるかも知れないんだぞ」
「時間がないなら最初に目にしたお店でいいよ、贅沢言わないから」
自分のわがままで途中下車したのだからそれ以上贅沢を言う訳にも行かないと私は食事の条件を最大限に譲歩した。この話を受けてまずは食堂探しの為に私達は歩き始める。無計画に現実世界に降りた為にここがどこかさっぱり見当がつかない。
キョロキョロと周りを見て分かった事は、ここがどこかの中規模の街らしいと言う事だ。
しかし地方都市に降りる事が出来たのは幸運だった。田舎過ぎると食堂自体がない事だってありえるし、もっと都会だったら大騒ぎになっていたかも知れない。こんな丁度いい場所に来る事が出来たなんて、私、持ってるね!
「それにしても降りた場所が繁華街の近くで良かった。これならすぐに見つかりそうです」
「ここ、どこなのかな?」
「さあ、どこだろうな」
「最近は全国展開する店が多いからどこの同じ景色に見えてしまいますね」
降り立った街を歩きながら私達は食堂を探した。ここがどこなのか土地勘がないので分からない。道路標識の地名も分からない。だから流石に知らない土地に来たんだなあって実感出来る。
場所はよく分からなくても見知ってお店とかがちょくちょく目に入ってくるのが不思議な感覚だった。全国展開をしているチェーン店とか本当に全国に展開しているんだなあって言う謎の感動もあった。
ここがどこか分からなくても肌で感じる雰囲気で分かる事もある。そこで気付いた事を私は口にした。
「でも私の地元に比べた寒いからきっと北の方だよ」
「ああ、それは間違いないだろうな」
そんな会話を続けていると私の目にお店の看板が飛び込んで来た。空腹感が嗅覚を鋭くしたんだろうか、お供の2人はまだそれに気付いていないようだ。そこで私はこれみよがしに大袈裟に声を上げる。
「あ、ラーメン屋さん!」
「あそこにしますか?」
龍炎がすぐに私の言葉に反応してくれた。流石紳士はこう言う時の受け答えも洗練されているね。私は興奮しながらこの店を勧める。
「行こうよ!ご当地ラーメンとか食べられるかも」
「決まりだな」
有己も文句ひとつ言わずにこの提案に従ってくれた。そんな訳で私達は知らない街の知らないラーメン屋さんで昼食を取る事になった。
そのラーメン屋さんはこの道うん十年の地元で愛されているお店と言った風情で、店の入口に立っただけで期待に胸が膨らむ、そんな雰囲気だった。
何分知らないお店なので一瞬入るのを躊躇したものの、ここは度胸だと意を決して入店する。店内もまたよくある普通の昔懐かしいラーメン屋さんと言った感じで、時間がお昼時のピークを少し過ぎた事もあって、お客さんの入り具合は程々と言うところだった。
「いらっしゃい!」
威勢のいい出迎えを受けて私達は適当に座る場所を探す。ちょうど4人座りのテーブル席が開いてるのが目に入ったので自然とその席に座る流れになっていた。席順は私の隣が龍炎で向かい側が有己だ。改めてこの状態で座るとまるで逆ハーレムみたい。別に恋愛感情とかはないけど。
さて、ラーメン屋さんに入った以上はメニューを決めないとね。私は改めて2人に質問を投げかけた。
「何ラーメンにする?」
「俺は普通のラーメンで」
有己はメニューを吟味する事なくほぼ即答で答えていた。そりゃ、普通が一番無難だけど、一応どんなメニューがあるのか調べてから答えた方が良くない?
そう思った私はテーブルに置かれているメニューを吟味する。塩ラーメンに醤油ラーメンにチャーシュー麺……。
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