闇の道ドライブ

第35話 闇の道ドライブ その1

「うわ……真っ暗」


「闇の道だからな」


 乗り物眷属に乗り込んだ私達3人は順調に闇の道をドライブしていた。あれ?浮かんでいるからフライトなのかな?多少上下に揺れている気もするけど乗り心地はそんなに悪いものではなかった。真っすぐ進んでいるのでカーブで遠心力に引っ張られる事もないし。


 問題があるとしたらそれは周りの景色が真っ暗で何も見えない事。まるでずっと出口のないトンネルの中を進んでいるみたい。トンネルはそれでも照明がついているからいいんだけど、この闇の道は文字通りの闇一色。旅の醍醐味は流れる景色を見る事にもあると思うんだけど見事にそれは叶わない。

 身の安全の為に仕方ないとは言え、これはちょっと残念だなあ。


 しかしずっと先の見えない闇の中を進むと言うのは初めての体験で、やっぱり不安も大きかった。

 ここで私がつまらなさそうにしていたのを察した龍炎が優しく声をかけて来た。


「申し訳ありません、怖いですか」


「まぁ、少しは……」


 別に使徒に気を使うつもりはなかったので私は正直に彼に話した。すると龍炎は少し困った顔をして、それからしばらしくて口を開く。


「どうか辛抱してください。そうだ、不安が薄まるように手、握りましょうか」


「え、いや、そんな……」


 彼から差し出された手を私は握れなかった。唐突にそんな事を言われても困ってしまう訳で。今までそう言うシチュエーションになった事もなかったのも大きかった。やり慣れていない事をやるのってどんな些細な事だって勇気がいるよね。

 その状況を横目で見ていた有己はニヤリと笑ってからかうように私に言った。


「遠慮すんなって。大体、子供は温もりに安心するものだろ?」


「有己から温もりなんて感じた事ないんだけど。って言うか私を子供扱いしないで!」


 そんな彼の言動にカチンと来た私は精一杯の反撃をする。何でこの期に及んで子供扱いされなきゃいけないんだろ?失礼しちゃう。私の怒りの抗議を受けた彼はさっきまでのニヤケ顔から一転、急に真面目な顔になってポツリと呟く。


「俺は使徒だからな」


 この言葉、どう捉えたらいいんだろう。やっぱり無難なのは自分は使徒だから人の心なんて分からないとかそう言う感じだろうか。とにかく、場が白けたのでこの会話の流れはここで突然ぷっつりと途絶えるのだった。


 この乗り物眷属、広さは大体一般的な軽自動車の車内と同じくらい。だから3人が乗っかるともうスペース的な余裕はあんまりない。操縦は自動操縦のようで特に誰かが操作している風には見えなかった。乗り物のような形になっているとは言え、正体は眷属なのだからこの乗り物自体が自動的に判断して動いているとしても何の不自然さもない。


 周りは真っ暗だけどこの乗り物眷属は自発的に周りが見えるくらいは発光していて、乗っている私達の姿まで真っ暗と言う事はないんだよね。


 後、言ってみればエイの背中に乗っているような感じなので立つか直接ベタッと座るかのどちらかの姿勢を取るしかなく、使徒の2人は立っていたけど私は早々に座り込んでいた。これから何時間もこの状態なんだからずっと立ちっぱなしなんて無理だよ。こんな事になるなら椅子でも持ち込んで来たら良かったなぁ。


「しかし本当に真っ暗だね。漫画だったら手抜きって言われるよ?」


「作者に優しくていーじゃねーか」


 道中、あんまり暇だったのでつい私はアホな事をつぶやいてしまう。この言葉に有己は律儀に付き合ってくれた。こういう彼の性格は、まぁ、嫌いではないね。そんなやり取りをしていたら急に誰かが肩を抱いて来た。私は驚いて声を上げる。


「ひゃっ」


「やっぱり、冷たいですか」


 このメンバーの中でそんな事をするのは龍炎しかいない。彼のこの行動の意図が分からなかった私はちょっと混乱する。


「えっと、あの……急にそう言う事は」


「あ、そうですね。すみません、配慮に欠けていました」


 彼はそう言うとすぐに私から距離を取った。何となく気まずい空気が場を支配する。どうして彼がそう言う事をしたのか、彼自身が話さないと真相は分からないけど、多分不安そうな私を見て安心させようとしてくれたのかな……とか思ったり。都合のいい考えかも知れないけど。

 ずっとこのままなのは流石にしんどいので、何とかこの雰囲気を変えようと私は無理やり話題をひねり出した。


「えっと、あの……そうだ、これどのくらいのスピードが出てるんですか?周りが暗くて早さを実感出来なくて」


「そうですね……。推測ですけど、多分時速150キロは出ていると思いますよ」


「やっぱり、結構飛ばしてるんだ」


 時速150キロって高速道路でも車が出しちゃいけないスピードだよ。列車で考えても結構早い。飛行機には……まぁ、負けちゃうかな。それにしても結構早いね。そう考えると眷属ってすごい。この私の反応に有己はまるで自分の事のように強い勢いで私に言葉を投げかける。


「眷属の力を舐めてんじゃなーぞ」


「いや、別にそんな事は……」


 うーん、私の反応、彼には馬鹿にしたように聞こえちゃったのかな?言葉って難しいね、うん。


「この調子で行けば5,6時間で目的地の近くまで行く事が出来るはずです」


「それでもそんなに掛かるんだ……遠いね」


 私は改めて長い旅をしているんだなと言う事を実感していた。産まれてこの方、ひとりでそんな遠くまで出歩いた事はない。これはもうちょっとした冒険だった。旅のお供がいるにはいるけど、友達とかじゃないしなあ……。


 私は改めてこのとんでもない事態に自然に馴染んでいる自分をちょっと怖く感じたりもしていた。成り行き上仕方のない話ではあるんだけど。

 それにしても周りの景色が分からないと言うのは色々と感覚が狂ってしまう。これは困るね。


「周りが暗いから時間の感覚も分からないけど……」


「ま、退屈だわな」


「疑う訳じゃないけど、ちゃんとこれ目的地に向かっているんですよね?」


 そう、周りが真っ暗って事はどこに向かっているかもさっぱり分からないと言う事。こう言う疑問が生まれてしまうのも必然だよね。この私の言葉を聞いた有己は当然のように気を悪くしていた。


「それを疑っているって言うんだよ。この状況で何を疑う事があるんだよ。みんな運命共同体なんだぞ」


「それは……そうなんだけど」


「闇の中ではどんなに精神力の強い方でも心の闇に飲まれるものです。安心してください。間違いなく目的地にまっすぐ向かっていますよ」


 流石龍炎は人間が出来ているね。この場合、使徒が出来ているって言うのかな?彼の言葉を聞いた私はその言葉の力強さにほっと胸を撫で下ろしていた。同じくらい長い年月を生きているはずの有己は何でこんなに精神的に未熟なんだろう。不思議不思議。

 そんな彼は何故か私に対して説教的な言葉を訴えるのだった。


「お前もそろそろ闇神様の器としての自覚を持ってくれよ。本来ならここまで馴染んだらこの闇の力に酔いしれてもいいくらいのはずなんだぞ」


「そんな簡単に人間やめられません!」


 まぁそんな事を言われたら私も反発するよね。大体、望んでこんな体になった訳じゃないっちゅーの。私がキレた事でこの話題の流れもここでぷっつりと切れたのだった。

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