第34話 警告 後編

「まぁまぁ……どうも初めまして。私は今のハンターのリーダーをさせてもらっています、潮見龍樹しおみたつきです。使徒の皆さんには精々死なないように頑張って欲しいと思っています。これからも私達の為に頑張って悪あがきをしてくださいね」


「こいつが……リーダー……だと?」


 有己はこのハンターの若いリーダーを自称する少年を見て言葉を失っていた。私だってハンターのボスがいきなり出てきた事に驚いたよ。すぐに龍炎の方を見たら彼も驚いた様子だったものの、決して取り乱したりはせずに黙って現実を受け入れているようだった。


「彼、見た目からして高校生くらいかな?でもハンターって古い組織じゃなかったっけ?」


「前の代表は確か50代位の実力者だったはず……。ハンター組織内にも何かがあったのかも知れません」


 龍炎が言うには前のハンターのリーダーは如何にも実力者って感じのおっさんだったらしい。この事から使徒達の知らない所でハンターの組織にも世代交代が起こっている――そう考えるのが自然なようだった。

 映像は更に続いてる。私達は彼らが何を喋るのか一言も聞き漏らさないように集中してそれを眺めていた。


「その眷属、今は返しますが、分かっていますよね?二度目はないって事ですからね。お忘れなきよう……」


 ハンターの若きボス、龍樹がそう言い終わると映像は突然プッツリと終了した。内容から言って、もうハンター組織を襲うな!って言うメッセージなのだろう。

 ハンター側からしてみれば、そりゃ当然の要求だよね、うん。この映像を見た使徒2人はそれぞれ異なる反応をしていた。


「くそっ!舐めた真似を!」


「でもこれで一層はっきりしましたね。早く最後の使徒と合流しましょう」


 龍炎の言葉を聞いた私はふと悪い考えが頭をよぎる。いくら使徒がひとり増えたって言っても、そんなのは焼け石に水なんじゃないかって気がしたのだ。


「でもたった3人で大丈夫?」


「ばーか」


 私のこの言葉に有己が馬鹿にしたように言い放つ。それを耳にした私は挑発されたような気がして気を悪くした。


「は?」


「俺達には我が主が、お前がいるだろ?」


「な、あてにされても困るんですけど!」


 有己が強気だったのは私を、正確には私の中の闇神様をあてにしていたからだった。急にそんな事を言われた私は何だか恥ずかしくなって顔を赤くする。

 そんなやり取りを横目で見ながら龍炎は粛々と旅の準備を進めていた。この人は本当に動じないんだなぁ。


「まぁまぁ、とにかく出発しましょう。今はこの時間すら惜しいです。遅くなればなるほどチャンスは減っていく気がします」


「だな!」


 意気投合した使徒2人はお互いの眷属を決められた位置に並べ始める。それはまるで今から魔術の儀式を始めるみたいな雰囲気だった。私が息を呑み込みながら黙って様子をうかがっていると全ての準備を終わらせた龍炎が突然大声で叫ぶ。


「それでは……使徒合体!」


 彼の言葉を受けた眷属達は大きな光に包まれ、やがてひとつの乗り物の姿に変わる。この現象に興奮した私は思わず大声を上げていた。


「おおお!」


 合体した眷属の大きさは大きめの絨毯程の広さがあり、3人が乗るには余裕過ぎるスペースが確保されていた。実際、乗り物と言うよりは空飛ぶ絨毯といった方がしっくり来るような外観だった。合体した眷属は全体的に緑色をしている。それは色のベースが有己側の眷属だからなのかも知れない。

 その見た目もそうだけど、他にもふわふわと謎の力で浮いているし、あんまり早いスピードは出なさそうに見えた。


「行くぞ!」


「乗ってください」


 そんな乗り物眷属に使徒2人は何の躊躇もなく当たり前のように乗り込んだ。使徒2人に乗り込まれたこの乗り物眷属は意外としっかりしているのか少し揺れただけでしっかりとこの空間の上で停止していた。この様子を見た私は覚悟を決める。


「仕方ない、ここまで来たら行くしかないね!」


 全員乗り込んだ所でやがてこの乗り物眷属は動き始める。スーッと静かに動く感じはまるで未来の乗り物のようだった。ある程度進んだ所で龍炎が前方に手をかざすとモワモワっとあぶり出されるような感じで闇の道が現れる。私達はその闇の道へと吸い込まれるように入っていた。この先にどんな出来事が待っているのか全く想像すら出来ないままに。

 けれどこの時の私は何の裏付けも根拠もなしにただ明るい未来だけを信じていたのだった。

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