第33話 警告 中編

「自転車、ですか……。あ、乗り物と言えば眷属達を集めれば何とかなるかも知れません!」


「な、なあんだ~。そんな便利な方法があるんじゃん」


 何かいいアイディアを閃いたらしい彼の言葉を聞いて私はひと安堵する。歩かなくていい方法があるならそれがどんな手段でも私は大賛成だよ!

 ただ、龍炎の言葉を聞いた有己はかなり嫌そうな顔になっていた。


「ば、それって俺の眷属も集めてだろ?それじゃ計画が……」


「この際仕方ないでしょう。あなたの眷属の協力も必要です」


「計画って何?」


 2人が何か揉めているので私はその話が気になった。そう言えば最近有己って眷属をあんまり使いたがらなかったけど、つまりその計画と言うヤツが理由なのかな?

 私のこの質問に、当の有己ではなくて龍炎が答える。相変わらず笑顔を崩さないまま。


「ハンター本部をぶっ潰す計画です」


 この答えを聞いて私はああと納得した。だからずっとひとりで頑張っていたんだ。ハンター本部を潰そうとしているなら当然だよね。

 でも物事の優先順位を考えたらその計画はそこまで焦る事もないよね。だってこっちの準備すら整ってないんだもの。そう思った私は有己に一言物申した。


「それは急がなくていいじゃない。特に今しなくちゃけいないって事でもないんでしょ」


 私の言葉を聞いた有己は、場の雰囲気が悪くなったのを感じて観念したのか渋々龍炎の話に乗る決断を下した。


「分かったよ。全く、お前が眷属を失わなければ俺の計画が潰れる事はなかったんだ」


「え?そんな事があったんですか?」


「お恥ずかしい限りです」


 有己の指摘に龍炎は困り顔になって力なく笑う。一体彼の過去に何があったって言うんだろう。私がどんな反応をすればいいか困っていると、有己が龍炎の過去の話を話し始めた。


「こいつはなぁ、昔は眷属10体持ってたんだ。それで一度ハンターに半殺しにされてすっかり牙を折ってしまったんだよ。それで眷属に愛想を尽かされたんだ。それで今のこいつの眷属は半分になってる」


「あはは……」


「大変……だったんですね」


 今語られる龍炎の過去……ハンターにコテンパンに負けちゃったって……本人は力なく笑っているけどきっとすごく辛い事だったんだと思う。この話を聞いた私はそこで気付いた事をつい口に出してしまった。


「でも面白いね、眷属って嫌になったら離れていいいんだ……あっ……」


 その過去の出来事で心に傷を負っているかも知れないのに、私は何て事を言ってしまったんだろう。後悔しても一度口に出してしまったものはなかった事には出来ない。あーもう、私のバカ。この私の言葉に有己が反応する。


「まぁあいつらにも意思はあるしな」


「でもその御蔭で気配を消す方の技術は磨かれましたしね。倒されたと誤解させる方法も」


 私達のやり取りを聞いた龍炎は何も気にしていない風な顔をしてその出来事を経験して身に付けた技を自慢げに口にしていた。どうやら彼自身はその時受けた心の傷をもう克服しているみたいだ。私は龍炎が落ち込んでいなかったので取り敢えず胸をなでおろす。後、彼の特技を聞いた事で私は疑問をひとつ解消する事が出来た。


「あ、そうか。鬼島が言ってた話ってそう言う事だったんだ」


「彼、何か言ってましたか?」


 私の何気ないつぶやきを耳にした龍炎は当然のように興味を持って聞き返してくる。それでその時の事を私は彼に話した。


「私達と戦っている時に使徒をさっき倒したって……」


「ああ、その話……。はい、勿論そうです。そうやって今まで生き延びて来ましたから」


「芸は身を助く、だね」


「あはは……」


 私の言葉の龍炎は力なく笑う。私にはそれが強がりなのか本心なのかすら分からなかった。きっとそんな感じで感情を表に出さない事が彼の性質なんだろう。ここまでやり取りをして来て私はそんな決して本心を見せない彼を少し不気味に感じるようになっていた。

 その頃、眷属を呼び戻していた有己はその集まりの遅さに不安を覚えていた。


「しかし遅いな……もう戻ってもいい頃なのに」


 眷属は使徒のコントロール範囲より遠くには行かない事になっている。有己のコントロール範囲の上限がどの程度のものかは分からないけど、本人はきっと把握しているはずで、呼び戻すにしても大体の感覚は肌で分かるはず。その感覚より遅いって事は――。

 私がそんな最悪の想定までしているとやがてこの闇の空間に見覚えのある影が迫ってくるのが見えた。そう!彼らが戻って来たのだ。

 しかし戻って来た眷属達を見た私はその様子に違和感を感じる。


「あ、カール、ケール!……あれ?コールがいない?」


「コールはここだよ。まさか眷属全て遠征に出しているとでも?」


 有己はそう言うと懐からコールを取り出した。眷属ってそんな場所に収納する事も出来るんだ。久しぶりに見た三体の眷属はやっぱり巨大な虫にしか見えなくて、それを見た私は少し背筋に冷たいものが走る。それにしても……。私は前の戦いを思い出してちょっと腑に落ちないものを感じていた。


「手元においているならあのピンチの時に使えば良かったじゃん!」


「あの程度をピンチだとか思ってなかったんだよ!」


 私の訴えに対して有己は逆ギレする。何でここで逆ギレするのか意味が分からない。私も気に障って言葉を続けた。


「すごくやばかった癖に」


「何だって?」


 予想はしてたけど私の燃料投下を受けて有己は更に気を悪くしていた。ああ、売り言葉に買い言葉としてもちょっと言い過ぎちゃったかなぁ。

 どうやってこの場を収めようかと考えていると眷属達の様子がおかしい事に気が付いた。


「あ、カール、ケールも傷だらけだよ!」


「な、まさか!」


 私に言われてやっと有己も眷属達の異常に気付く。その傷は鋭利な刃物で複数回切り刻まれたような傷跡だった。眷属も使徒と同じく通常の物質では傷つけられないようなそう言う仕組みだったはず――。

 眷属達はハンター組織の本部を探っていたって話だから、きっとハンターに見つかってこんな事になったんだろうな。この傷を見た龍炎はその傷の深さに戦慄を覚えているみたいだった。


「これは酷いですね……こうなったって事は」


「ああ、奴らにバレたって事だ……」


 有己がカールの傷を確認する為にその傷に触れようとしたその時だった。眷属にかけられていた魔法のようなものが発動して空中に映像を浮かび上がらせる。この突然の出来事に彼は驚いて反射的に手を引っ込めた。


「何っ?」


「これは警告です……」


「き、鬼島っ?」


 映し出された映像に映っていたのはさっきまで死闘を繰り広げていた鬼島だった。彼は例のセレブっぽいきちっとした白いスーツ姿で身振り手振りを加えながら、映像を見ている私達に向かって話し始めた。


「これ以上深入りすれば、あなた達はその存在理由を失いますよ」


「何様だ!こいつっ!」


 その上から目線の忠告、いや警告を聞いて血の気の多い有己は興奮している。そんな彼に対して龍炎は冷静にその映像を見ていた。本当、対象的な2人だなあ。

 映像はそれから別の人物に切り替わる。場をなだめるように現れたのはまだ若い見た目高校生くらいの少年だった。

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