専任のハンター
第12話 専任のハンター 前編
「私をそこらのハンターと一緒にしないでもらいたい」
「ほう?」
「私は"専任"なんだよ。こう言えば分かるだろう」
おっさんは私達が聞いてもいないのに自慢気にそう宣言した。えっと……、専任って、何?ハンターの中でもエリートって感じのアレ?
私は思わず対峙している有己の顔を見たけど、心なしかちょっと緊張してるように見えた。私の想像、多分そんなに間違ってないなこれは。
そんな彼はゆっくりと戦闘の構えを取りながら、しっかりしたと口調でハンターを挑発していた。
「なるほど……精鋭様のご登場ってヤツか。そのくらいでないと張り合いがない」
「うまく学生に化けたようだが……私の目は誤魔化せん。師匠の敵、取らせてもらう!」
「師匠?確かに俺も過去に何人かの"専任"を倒したけど……あの中にお前の師匠がいたのか」
このハンターの話しぶりからして、有己は過去にこの人の師匠を倒しているらしい。そりゃ、恨まれて当然だよ。このおっさんから感じる尋常じゃない殺気の理由はそう言う事だったんだ。今回、勝てるのかな?余裕ぶってる場合じゃないよ!
有己の挑発を受けたハンターはその言葉に激高する事もなく、冷静に言葉を返した。
「昔話をするつもりはない。確かな事はひとつだけ。お前は今日ここで死ぬって事だ!」
「お前がその師匠より強ければ、可能性くらいはあるだろうな」
ここまで来てもまだ有己は自分の態度を変える事なく、ハンターを挑発し続けていた。そっか、よっぽど自分の力に自信があるんだね。
考えてみれば私、こいつの本気ってまだ見た事なかった。今まで何度か戦闘は見た事あるけど、みんなどこか手を抜いている風だったから。
もしかしたら今回の戦いで有己の本気の戦いが見られるのかも!そう思った私はちょっと興奮していた。
「私が師匠を超えた事をその身でとくと味わうがいい!」
最初に仕掛けたのはハンターの方だった。彼は見た事のない武器を繰り出して有己を狙って来る。その武器はくねくねと自由自在に曲がってとらえどころがなく対処の難しい刃物の集合体だった。
この攻撃には流石の有己も避けるので精一杯な感じだった。
「うぉっ!」
「どうだ?見覚えがあるだろう?」
有己の苦戦している姿を見ながらハンターは言った。今回の戦い、やっぱり使徒側がかなり不利だ。おっさんはしっかり対使徒戦の技を磨いてここに来ている。対する彼は――過去のあの人の師匠を倒したらしいけど――。
縦横無尽に襲い掛かってくるその執拗な攻撃を紙一重で交わしながら、有己は何かを閃いたかのように口を開いた。
「お前、蛇腹の使い手か……そうか、思い出したぞ……。あいつの弟子か」
「そうだ!あと一歩でお前を倒せたはずの先代の名前を俺は受け継いだ!この12代目"蛇牙"が貴様に引導を渡す!」
そう、やっぱり有己はこの武器の事を知っていたんだ。蛇腹……くねくねと曲がるその姿が蛇みたいだからそう名付けられたんだろうか?
それより私の興味を引いたのはおっさんの名前だった。名前を漢字で見たら違和感もなかったんだけど、音だけで聞くと本当にそう聞こえたんだ。
「え?ジャガー?ダサ……」
名前がジャガーだなんて悪趣味にしか聞こえない。この時の私はまだ自分の勘違いに全然気付いていなかった。
でもこれはおっさんの滑舌が良くなかったのも原因のひとつだと思う。12代ってそんな昔から続く名前が英語な訳がないのに。
私がハンターの名前に思わすツッコミを入れてしまった事で有己もそのネタに乗っかった。
「お前……笑われてるぞ」
「それがどうした!私はこの名に誇りを持っている!今更周りからどう言われても動じはしない!」
この精神揺さぶり攻撃、流石専任と呼ばれるだけあって蛇牙には全く効いていないみたいだった。何て鋼の精神力なんだ。
とは言え、私もただ素直な感想が思わず口から出ただけで、最初から攻撃の意図なんて全然なかったんだけどね。
この厄介な武器に苦戦しながらも、有己はまだ余裕の態度を崩さずにハンターを挑発し続けていた。
「やるじゃねぇか、お前。蛇腹も結構使いこなしてるし」
「余裕だな。だがここからが本番だ」
この話しぶりから蛇牙は今からとっておきの攻撃を繰り出して来るようだ。ここまではハンター側もまだ小手調べの段階だったみたい。
お互いの腹の探り合いは、まだどちらも決定的な一撃を相手に与えられないまま、時間だけがただ過ぎ去るのみと言う様相を見せていた。
頃合いを見計らっていた蛇牙は自慢の蛇腹を一旦懐に戻し、改めて有己に向けて超高速で繰り出した。
「蛇腹第三形態"
そう言って繰り出された蛇腹は、まるで意思を持つかのように有己に襲い掛かってくる。攻撃方法こそさっきと何一つ違わないみたいだったけど、そのスピードは格段に早くなっていた。さっきまでの攻撃スピードに慣れていた彼はタイミングをうまく合わす事が出来ず、ついに蛇腹に巻きつかれてしまう。
「うぐっ!」
有己の身体に巻き付いた蛇腹はそのまま彼の身体をきつく縛り上げ、完全に身動きを取れないようにしてしまった。
この技は相手の身体を拘束する、そんな技のようだ。完全に技を決められた彼はこの技の完成度を褒め称えた。
「さ……すが、だ。しか……し、懐か……しいな。この技の……攻略には……苦労……させ……られたぜ……」
「ここで終わりか?意外と大した事なかったな」
有己はこの技を解こうと体を動かそうとしたものの、いくら動かしてもその拘束を解く事は出来なかった。
その無様な様子を見て蛇牙は達成感と不満を同時に覚えていた。どうも宿敵が自分の想定する力より弱ければ落胆するものらしい。
私はもちろん有己の応援をしていたから、苦しんでいる彼を見て何かアドバイス出来ないか必死に考えていた。
「何で?なんで眷属の力を使わないの?」
「あいつらは今別の仕事をさせているんだよ……安心しな、この程度本気になればどうって事ない」
こんな絶体絶命のピンチを前にして、それより大事な仕事って何だろう?私には有己の思考パターンが全然読み取れない。
この彼の言葉を聞いて、技を仕掛けた側の蛇牙もその言葉に何か引っ掛かりを覚えたようだった。
「本気……だと?」
「今から見せてやるよ、お前にとっての懐かしい姿をな……」
有己はそう言うと身体から黒い霧のようなものを発生させた。辺りはどんどん彼の生み出した闇に飲まれていく。そしてその闇は十分に拡散した後、また収束していく。別の場所に凝縮された闇がまた形を持った時、そこには私が初めて会った時の姿の彼がそこにいた。
長身でスラっとしていて闇が深くて表情が読み取れない、まるで死神のようなその姿を見て私は思わず息を飲み込んだ。
「そうだ……それだよ。私が倒したかったのは」
「この姿になった俺に勝てると思うなよ?」
本来の姿に戻った有己は落ち着いた低い声で蛇牙を挑発する。おお、何だか勝てそうな気がしてきたよ!
でもハンター側も彼がその姿になるのを望んでいた風なんだよね、これは油断大敵だ!
「私も同じですよ。これでやっと貴方用の特別を披露する事が出来る……。師匠を超えたこの新しい技でね!」
蛇牙はまた一旦蛇腹を懐にしまいこんで前傾姿勢になりながら技の構えを取った。うわ!何かすごい技が来そう!有己、大丈夫だよね、まさか一発でやられたりとかはされないでよ!
「蛇腹終の型!"冥府魔道"」
その技は今までとは少し違っていた。今度はなんと蛇腹が二本になっていたのだ。つまり二刀流。それがこの技、冥府魔道の正体らしい。
二本の予測不能は蛇腹は時に絡み合い、時に大きく距離を開けながら予測出来ない動きで有己に襲いかかる。
「くっ!」
すぐに対処するのが無理と判断した彼は、蛇腹の射程外に出ようとひたすら間合いから離れようとする。
自慢の足を使って高速でバックステップを踏むものの、二本になった蛇腹は執拗に有己を追い続けていた。
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