使徒探し
闇のお告げ
第10話 闇のお告げ 前編
(我の声を聞くのだ……)
(は?)
(使徒を集めるのだ……残りの使徒を集めよ、さすれば)
久しぶりに来たよ、闇神様のお告げ。これ、いつも突然来るから困るんだよね。折角好きな雑誌を読んでいたのに、この声のせいで全然記事が頭に入らない。いい加減にして欲しいもんだよ。
でも、気になっちゃうのもまた確かなんだよね。だから雑誌の記事も頭に入らない訳で。なので私はついお告げの続きを急かしてしまった。
(さすれば?)
(我の願いもまた叶うであろう)
え?自分の願いを叶える為に私を利用しようって言うの?そんな事を言われてホイホイやりますなんて言うと思う?
どうもこの神様は自己中心的だなぁ。あ、だから封印されたのか、納得。この神様の都合だけで動くなんて冗談じゃないよ。
(えー、面倒くさい)
(何じゃと?!)
私が不満を言うと闇神様はヘソを曲げてしまった。何この神様、心の余裕が無いな。理由を言わないと納得出来ないのなら、はっきり言ってやろーじゃないの。
(だってそれ、私に何の得があるの?)
(晴れて自由の身になれるぞ)
(あっ)
そうだった。この神様、自由になるために仮に私の中に宿ってるんだった。早く出て行ってもらえるなら、それに越した事はないね。
じゃあ仕方ない、ここは協力してやってもいいかなぁ。
でも、使徒を探すって全然あてがないじゃない……。あいつに聞けば何とかなるのかな?前に聞いた時は何も知らないみたいだったけど。
私は色々考えながらその日は大人しく眠りについた。
チチチ……チチチ……。
「うーん、いい天気」
一夜が明けて新しい朝がやってくる。今日もまた脳天気なくらいに晴れていた。鳥達の声が元気にこの新鮮な雰囲気を演出している。
全く何も変わらない朝の景色に、一瞬いつも通りの日々が始まる錯覚をしてしまい、私は急に虚しくなった。
「いい天気過ぎて病みそう……もう優子は永遠に戻って来ない……はぁ」
どれだけ悔やんだって過去は戻って来ない。それが最善の結果だったとしても、失ったものは果てしなく大きかった。
優子を失ったショックは私の心身をずっと縛り続けていた。もう学校にも行きたくない。部屋から出たくない。
「早く起きなさーい!」
いつも起きる時間を過ぎて母が起こしに来た。お節介で強引な母。でも彼女に余計な心配をかけさせたくない私は何とか自分を偽って登校の準備をし始める。家族の前でいつもの私を演じてそのまま学校に向かった。
学校に着いた私は速攻で机に突っ伏した。教室に入っても何もする事がないからだ。今までなら下らない話を聞いてくれたり話してくれる相手がいた。毎日を楽しく過ごせる友達がいた。
でも、もう彼女はいないのだ。ざわざわと喧しいはずの教室で私の心の中だけがやたらと静かだった。
「しおり、今日はいつにもまして暗いね」
「ほら、優子が転校しちゃったから」
「あの子優子以外に友達いなかったよね」
「じゃあなたしおりに声かけてみる?」
「やめてよ、ちょっと無理」
私がずっとその姿勢でいると、近くの女子グループの声が耳にしれっと侵入してきた。寝てると思ったのかな?
(聞こえているんですけどー)
そう思ったけどもちろん口にはしない、寝たふりを続ける。こう言う話は黙っていればそのまま消えていくんだよ。
そうしてじっとしていたら私を気にかける声が聞こえてきた。そう、有己だ。
「おい、大丈夫か?」
「心配してくれてありがと、今のところはね」
一応世話にもなってるし、こいつまで無視する訳にも行かないと思った私はゆっくりと起き上がって眠そうな声で返事をした。
取り敢えず眠いふりくらいはしとかないとね、対応が自然に感じられるように。
会話がここで途切れたので私はまた机に突っ伏した。誰とも関わりたくない時はこれに過ぎるね、うん。
さっきやり取りを聞いた女子グループがまた私を話の種にし始めたぞ。きっと彼女達は誤解をしているんだ。
でもあの子達に闇神と使徒の関係なんて言っても理解してもらえないだろうから、やっぱりここも聞こえないふりをしよう、うん。
「そもそも転校生と最初から知り合いみたいだし」
「どう言う関係なんだろうねぇ」
「誰か聞いてみれば?」
「やめてよ、絶対無理」
黙って聞き耳を立てていると言われ放題だな、私。って言うか、ちょい無理が絶対無理になっとる――そんなに私はハードル高いか。
その後も私は寝たふりをし続け、そして女子達は好き勝手な事を延々と喋り続けた。心を無にしていたせいでいつの間にか私は本当に眠ってしまっていた。授業開始のチャイムにも気付かない程に。
「こら、もう授業は始まってるぞ」
「だから優子、先生の声真似は……あ」
この時、私は素で間違えていた。また優子がからかっているんだろうと――。机から起き上がった時、私の目の前にいたのは本物の担任だった。
その事に気付いた時、私は恥ずかしくなって何も喋れなくなってしまった。
「友達がいなくなって沈んでるのは分かるけど、授業はちゃんと受けてね!」
「はい、すみません……」
このやり取りで周りのクラスメイト数人に軽い笑いを提供してしまった。そうだ、もう彼女はいないんだ。早くこの環境に慣れなくちゃ。
休み時間になって、私を心配した有己がいつもの様にパンを頬張りながら私に声をかけて来た。うん、こっちの状況にはもう慣れたぞ。
「本当に大丈夫か?あむっ」
「心に開いた穴はそんな簡単には埋まらないのよっ!」
「安心しろ、お前の側には俺がいる」
この彼の言葉を聞いた私は一瞬ドキッとしてしまった。同級生に化けたこいつは確かに顔はイケメンの部類に入る。でもそれはまやかしだ。
本来は精霊であり、今の姿は世を忍ぶ仮の姿、それに――。
「それは私の中に闇神様がいる間だけの話でしょ」
「当然だな」
「もう、ほっといてよ!」
その心配も、私と言うよりは私の中に宿る主君を案じたものだと分かると空しくなった。私自身を心配してくれる人はもうどこにもいない。
それがただの思い込みだったとしても、そう思ってしまうと何もかもが信じられなくなってくる。
「大体、何で仲の良い友達を作らない?……あむっ……人間嫌いか?」
「違う。昔から人付き合いが苦手だったのよ」
「ああ、コミュ症か……」
コミュ症――世の中には便利な言葉があるね。そう言う言葉があるって事は世の中には私みたいなのが多いって事なんだ。
同じ悩みを持つ人となら、私も心を開けるかも知れないな。今のこのクラスには――いなさそうだけど。
しかしこいつは使徒の癖によくそんな言葉を……。もしかしたら私より世間一般の事に詳しかったりするのかも。
「よくそんな言葉知ってるね」
「当たり前だ。人間社会で暮らす為にはそれなりの情報はいつも仕入れておく必要がある……むぐっ」
「じゃあ使徒だからって特に会話に気を使う必要もないね」
「俺とはこんなにスムーズに会話が出来ているのにな」
「ほっといてよ!」
会話はスムーズに出来てもデリカシーのないのは困ってしまう。こいつは元からこんな性格なのだろうからこっちが合わせるしかないのか……はぁ。
でも話し相手がいるのはいいな。こんな奴でも私の心に空いた穴を多少は埋めてくれているよ。きっと感謝すべきなんだろうな。
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