第6話 その名はハンター 後編
「で、どうなのよ実際」
まぁ私も奢ってもらった手前、この話を無視する訳にも行かない。でも正直に言っていいものかどうか……。
取り敢えず探り探りでお互いが納得出来そうな落とし所を探してみよう。
「だから、あの店の外で待っているあいつとは何もないの!」
「そもそも何があって2人は急接近した訳?」
わ、やっぱり来た。この質問は来ると思ってたよ。転校初日から見た目は親密になってしまったからなぁ。
とんでもない誤解をされているのは間違いない。せめてこの部分だけでも理解してもらわなくちゃ。
「私と奴はさ、実はちょっとした知り合いだったのよ」
「その割に最初は全然知らないっぽかったよ?私に嘘が通じるとは思わない事ね」
「うぐぐ……」
「ほらほら、何か秘密にしている事があるんでしょ?怒らないから正直におねーさんに話してしまいなさい」
「同級生なんですが」
優子の言葉に私は突っ込んだ。その攻撃はさほど意味を持たなかったけど。彼女は私の唯一の友達だし正直に話しても大丈夫かな?
大丈夫だよね?今まで何でも話して来て裏切られた事は一度もないし――親友に隠し事はいけないよね?
「あのね、秘密を守ってくれるなら話さなくもないよ」
「何それ?……まぁその話次第かな?しおりが悪の道にはまっていたなら親友として放っておけないし」
「真面目な話をしてるんだけど?」
「分かってるって。大丈夫、秘密は守るよ」
それから私は全部話してしまった。闇神様の事も、使徒の事も。話がとんでもないのに優子はツッコミひとつ入れずに黙って聞いてくれた。
ああ……やっぱり持つべきものは親友だなって、私はその時本当に心からそう思った。溜めていたものを吐き出せて私はひとりスッキリしていた。
「うん、知ってた」
私の話を全部聞いて、優子は満面の笑みを浮かべながらそう言った。私は自分の耳が嘘をついたのかと思った。
普通に考えて、こんな話を素直に聞く人間はいない。もしいるとしたらその事を最初から知っている人間だけだ。
もし優子がまだ世間を知らずの純粋無垢な子供ならば、こういう反応はあるのかも知れないけど……。いや、それでもこんな反応はしないはず。
「知ってた……の?」
私は混乱してしまって思わず謎の反応をしてしまった。何これまるで悪事がバレた犯罪者みたいじゃない、私が。
この私の返事を聞いても目の前の優子はその笑顔を崩さない。と言う事は――えっと、もしかして彼女も闇神様の関係者の人?そんなバカな……。
「私、実はね……。あ、ここから先はお店を出てからにしようか」
「あ、うん」
私と優子は店を出た。当然のように有己も堂々とついてくる。何だこのよく分からんプレッシャーは。
私達はずんずんと先に進む優子についていく。いつの間にか知らない道を歩いていたけど、頭が混乱していた私は何も考えられずに彼女の後に続く事しか出来なかった。
でも、もし優子が闇神様の関係者だったとして、昔私のクラスに転校して来たのもそれ関係だったりするんだろうか?
じゃあ今まで秘密にしていたのは何故?それと当然のように今それをバラしたのも何故?
ああもう何もかも信じられなくなる……。一体私はどうしたらいいの?
(落ち着け、娘よ。お主には使徒がついておる)
(使徒ってあの有己の事でしょ?あいつ本当に役に立つの?)
(使徒がハンターによって倒されて来ているのは知っておるな?そんな迫害の中でアヤツはそれでも生き残った言わば精鋭じゃ。その実力は推して知るべきじゃろう。並大抵の奴には負けんよ)
(まぁ……あんたがそう言うなら……)
「ここでいいかなっ」
ニコっと笑った優子はそう言って見た事のない建物の前で立ち止まる。それは小さな集会所みたいなこじんまりとした建物だった。
私の地元にこんな場所があったとは……。産まれて15年この街で暮らして来たけど、まだまだ知らない事は多いものだなぁ。
「ここは?」
「ここはね、この街の……『ハンター支部』なんだなっ!」
「またまたぁ……冗談きついって」
この時点で私はこれは彼女の冗談だと思っていた。優子の見慣れた笑顔は私を安心させていた。
けれどその次の瞬間、彼女は今まで見た事のない真剣な顔をして私を見つめながら語り始める。
「私はね、あなたを監視してたの……ずっと」
「マジで言ってんの?」
「いい?闇神の使徒って言うのはこの世界で悪の限りを尽くす最悪の存在なの!ハンターはそいつらを倒すための組織!」
「ちょ、目が怖いよ……」
いつもと全く違う彼女のシリアスな雰囲気に私は圧倒されてしまう。私の知らない優子がそこにいた。
その衝撃的な告白にショックを受けた私が何も出来ないでいる中、彼女は言葉を続ける。
「私の両親もハンターだった……。でも今はもういない」
「待って、待ってよ!それが本当だとして優子は私をどうするつもりなの?」
「あなたはその身に闇神を宿している……。人の身に宿った神に私達は手が出せない、だから」
「だから?」
「あなたごと封印するの!今から!」
何だかとんでもない事になったーっ!封印されるってどう言う事!何かよく分からないけど嫌だ!訳も分からずにそんな目に遭いたくない!
私はその場から離脱しようとするけど、何故か私の両足は動こうとしなかった……。まるで足首をしっかり誰かに掴まれているような嫌な感覚だ。
「術式はもう発動してる。逃げられないよ」
「優子、ひとつ……教えて……何で今なの?」
「私はあなたが資格者だと分かって監視者として近付いたの……。縁が繋がらなければずっと友達でいる事だって出来た。でもあなたは事実そうなってしまった……。それでも友達を演じていたのは、あなたが私を頼るのを待っていたからよ。ただそれだけの話」
そう語る優子の声は冷たかった。今まで知っていた彼女とはまるで別人。こちらが本当の彼女の素顔なのだろうか?
やがて私の周りの半径2mほどの空間が謎の光を放ちながらぐにゃりと曲がっていく。その後、地面がゆっくりと沈み始めた。
おいおいおいおい!マジもんだぞこれ……。このまま地面飲み込まれて虚数空間で夢幻の時を彷徨うとか洒落にならないよ!
「もう気が済んだか」
パニックな私の混乱を止めたのは有己だった。彼は私の腕を掴むと沈みかけた私の身体を軽く引き上げた。
コイツ――ただの腹ペコマンじゃなかったのか。まさか本当に頼りになるなんて――。
「ふん、かかったな!全てはお前をここに引きずり出すための作戦よっ!」
優子はそう言って有己に向かって意味ありげに手をかざした。次の瞬間、謎のピンク色の光の輪っかが彼の身体を拘束する。
「そもそもハンターは最初から使徒の殲滅が目的の組織!闇神を危機に陥らせればいくらでも使徒がやって来る!」
えええっ!優子ってば私を使徒ホイホイとして使ったって事?私の存在意義ってその程度なの?地味にショック!
「やれやれ……この程度で俺を拘束したつもりとは、この街のハンターは質が悪いな」
「何を……」
有己は優子の放った光の拘束を軽く引きちぎると、意味ありげに片手を頭上に上げる。するとその手のひらの上に謎の闇エネルギーが集まっていくのが私にも分かった。もしかしてあいつ……。
「お手本、見せてやるよ」
有己はそう言って手を振り下ろす。彼の手に集まっていた闇エネルギーは優子をすっぽり包み込み……、あっさりと彼女を拘束してしまう。
拘束された優子は身動きがとれないままその場に倒れてしまった。きっと闇エネルギーが彼女の生気を吸い取ったんだ。
「じゃ、帰るか」
「え?あの……優子、このままなの?」
「大丈夫だろ?ここはハンターの支部らしいし。その内、仲間のハンターが拘束を解くだろうさ」
私は改めて拘束された彼女を見た。よく見ると寝息を立てて眠っているみたいだ。どう見ても命に別状はなさそう。
その安堵した私の様子を見て有己は屈託なく笑う。
「しおりの友達に俺が酷い事する訳ないだろ?ほら、いつまでもここにいたらまた別のハンターが来るぞ」
「あ、うん。優子、ごめんね。また明日ね」
私は寝息を立てている優子に一言謝ると急いでその場を後にした。
しかしハンターがこんなに私の身近な所にいたなんて……。油断も隙もないって言うか、本当に怖いなぁ。
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