答えは左です。

落果 聖(しの)

答えは左です


「十年後この桜の木の下でまた会おう。

 と言っても十年後の君と今の君を同一のものとして認めたくない。

 細胞って二年で入れ替わるんだぞ。

 それが五回もある。

 どう考えても別人だ! 全くもって許せん! しかし妥協に妥協を重ねて十年後の君と僕を同一とさせてもらう。

 おっと、十年後と言うのもアバウトな言い方だったね。僕としたことが失敬失敬。正確には――」

 私の知ってるクイズ部部長はとにかくキッチリしている人であり、正確な会話をするためという名目でいつも話が長かったし、決め事を破ることがとにかく嫌いな人だった。

 



 


「お客様、今からですと一番早くて三時間ほどお待ちいただく必要がございますが、どうなされますか?」

エレベーターガールみたいな人が話しかけてくる。どうやらここで桜の木の下での待ち合わせの管理をしているらしい。

「ちょっとまってよ! 昔は一本しか生えてなかったじゃない!」

「十年前、その桜の木の下で待ち合わせをしていた男女が永遠の愛を成就させたとして、今とてもホットなスポットです。ご利益は商売繁盛、携帯の電波が届きやすくなる、電子通貨の読み込み確率アップ、などなど100を超える効果があります」

「クイズ運アップは?」

 彼女は紙をぺらぺらめくる。

「ありません。桜の木をご予約しますか?」

「もちろんよ!」

「お客様おめでとうございます。貴方様で100万人目の利用者です」

「何か貰えるの?」

「そこでクイズです。この公園で最初に生えていた桜の木はどれでしょう?」

 これからクイズ研の部長に会うんだ。朝飯前レベルで解けなければ部長に笑われてしまう。

「やぁ十年ぶりだね」

「部長は黙ってください! このクイズに答えられない程度では部長に会えるわけ無いんですから!」

「いや、俺ここ、俺ここ!」

「黙ってください!」

 私はにやりと笑う。問題が解けた時の開放感。この感覚のために私はクイズに挑み続ける。

「答えはここに存在しない!って、じゃあ私どこで部長を待てばいいのよ!」

「いやだから俺ここに」

「クイズ大好きで物事に細かい部長が、あの桜の木の下以外での待ち合わせを、待ち合わせに認めるワケがないでしょ!」

 クイズで頭がいっぱいなのに邪魔しないでよ!

「さて、第二問!」

 その掛け声と共にヴェールをかぶった人がおじさんの後ろから出てきた。

 おじさんはそのヴェールをさっと取り外すと、そこには部長がいた。

「どちらが本物の部長でしょうか!」

 私はにやりと笑った。

 

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答えは左です。 落果 聖(しの) @shinonono

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