+弐日目-怪異-

 目が覚めると、重い体を起こして、まずはふすまを開ける。しかし見慣れた一室に反して、そこに広がるのはただ深い暗闇だけを見て、彼菜ははっと息をのんで、万芽を呼んだ。

 しばらくするとひたひたという音が鳴り、彼女の部屋へのふすまが開けられた。

 そこには万芽ではなく、彼菜と同じくらいの歳だろう人間がいた。服装も似ており、一見するとただの少年のようだったが、彼菜は目を見開く。

 そこには顔がないのである。顔だけが切り取られたように存在せず、外と同じ闇が広がっているのだ。

「ああ、ごめんよ。今、そっちに行けないんだ。用ならそいつに言っておくれ」

 顔のない少年から、どういうことか万芽の声が聞こえた。そうなの、と動揺を隠しきれずに答える。彼菜は外へのふすまを閉めて、恐る恐る顔に空いている虚空を見に行った。

 いくら覗き込んでも闇しか広がっていない。

 彼菜は背筋を震わせながらも、ようやく切り出した。

「聞いておきたいんだけど、お面か何かないの。さすがに、怖いんだけど、この子」

 彼の闇から目をそらしながら、姿を見せない怪鳥に提案を求める女性。しかし返事がないことに困り、布団を畳んで部屋の隅へと運ぶ。一仕事終えた彼女に、ようやく声がかかる。

「お面かい。そうだねぇ、倉庫にでもないかね、探してごらんよ。あたしが作り忘れてなきゃあるはずさ」

 おそらく顔のない少年から聞こえている万芽の声は続けて、ところで何の用なんだい、と尋ねる。

「えっと、話し相手が欲しくなったってだけよ」

 彼の隣をすり抜けて、寝ていた部屋から廊下に出て、木でできた廊下を進んでいく。その後ろに少年も、万芽の声を出しながらついて回る。

 部屋出てから五回ほど角を曲がり、一つの空間へと足を踏み入れた。本や棒やらが大量に積まれた倉庫である。思わず声を上げた彼菜はすぐに、目を輝かせながら手近にあった本を手に取った。だが、背表紙だけには題目などが載っているものの、他の表紙や中身には何も書かれていない。はあ、と落胆した様子で、元に戻す。それを見てか、万芽が口を開いた。

「悪いねぇ。さすがに本の中身までは再現できなかったよ。お面、あるね。取らせるよ、こいつに」

 彼菜が視線を上げると、そこには木から削り出したのであろう、お面があった。色も塗られていない、木そのものだ。彼菜の背後から背伸びをして、お面を取った少年は顔にそれをつけた。だが、お面から覗く目のあたりは、闇をのぞかせている。

 そういえば、と万芽が声を上げた。

「そうだよ、この面、あんたが初めて送ったときのじゃないのかい。はは、ゲテモノを目にしてるくせに、こいつにひびるだなんて、一応、女なんだね、あんたもさ」

 あはははは、と笑いだす。別にいいでしょ、と彼菜が答えるのも無視して、笑い続ける。


---


彼菜の父親は駄菓子屋を経営しているが、閉店すると、短い刃物と明かりを持ってよく出かける。彼菜が好奇心にあふれていた頃、尋ねたことがある。

「父上は、いつもどこへ行かれているのですか」

 夕方あたりで閉店しては、毎日のように出かけていく。一日中起きて、どのくらいに戻ってくるのかを調べようともしたが、幼い身には耐えられなかったことは、彼女もよくよく覚えている。

 だが数年も経って、少女は父親に声をかけられることになった。もしよければついてくるか、と何気ない一言だった。

 うん、と即答した彼菜は畳に座り込みながら、万芽と話していた。父上はこれまで何をしていたんだろう、と。

「さてね。あたしが知るもんかい。少なくとも、楽しいことではないだろうよ」

 万芽は彼菜が迷子になった翌日以来、居座っているのである。わりとすんなりと受け入れたこの一家は、餌を必要としない万芽をどのように思っているかは、彼菜にとっては謎である。

「そうなんだ。それは何で」

 当然の疑問は、猛禽の言葉を詰まらせ、あらぬ方向へと視線を向ける。

「そ、そりゃ、夜だよ。何があるのか分からないんだし、危険だから、ねぇ」

 たしかに、と納得したふうの彼菜は駄菓子屋が閉店するまで万芽とただただ会話を続けた。昨日の夕飯について、友人について、父親が何をしているかなどだった。

 やがて、父親が現れた。ふすまを軽くたたき、自らの来訪を彼女たちに伝える。はい、と元気よく答える少女は万芽を従えながら出迎えた。

「父上、お疲れ様でした。これからどこへと向かわれるのでしょう」

 ふすまを開けた娘は間髪入れずに述べるが、父親はまあ落ち着け、となだめながら、手にしていた道具を身に着けるように言った。ひとつは、少し大きめの籠手らしいもの、もうひとつは彼のものであったはずの刃物。そして、顔につけるという木製のお面。

「お古だけど問題ないだろう。万芽様もいらっしゃるのだから」

 不思議そうに彼菜は、左腕に籠手をつけて、万芽をそこにとまらせるように指示された。右手の裾に刃物を隠させて、顔をお面で隠し、じゃあ行くぞ、と誘われる。

 父親は娘の右手を引きながら、駄菓子屋を出て住宅地、そして懐かしい場所へと連れてきた。迷子になった山である。

「ねぇ親父さん、こんなところに何しに来たんだい。もしかして、彼菜を生贄にする、だとかじゃないだろうねぇ」

 ここまでやってくるのに何百歩も歩いたのだが、いぶかしむ万芽は父親へと鋭い眼光を向ける。羽を軽く逆立てながら、彼菜の左腕の上で。その言葉に、ご冗談を、と笑う父親は山へと踏み入る。

「それでは万芽様は、さまよう霊、をご存じありませんか」

 霊、ああ、そうかい、と返す。

「その刃物で、霊をぶったぎるってのかい。こりゃひどい父親だね。娘にその現場に立ち会わせるだなんてさぁ」

 ははは、と笑っていた万芽が、ぐえ、と蛙のような声を出した、彼菜が彼女の頭を、右手で小突いたのだ。その小さな体に与えられる衝撃は大きい。父親は小さな手が一瞬だけ離れたことに、きょとんとしている。一瞬だけ、音が消えた。

 何もいない静かな夜は、迷い込んだ時のようである。夜行性の生き物もいなければ、風も弱い。だがここには言葉を操る存在がある。

「そういうこと言っちゃだめ、万芽」

 はいはい、と機嫌悪そうに万芽がそっぽを向く。彼菜が足元の段差に気づいて足を大きく上げる。

「父上、何をなさるのですか。私にはわかりません」

 父親の足が石を蹴った。明かりもないというのに真っすぐと山を進んでいく。

「彼菜、お化けって、知ってるかい」

 進行方向を向いている父親の質問に、元気のいい彼菜は、もちろんと叫ぶ。

「だけどね、お化けの中には、いいお化けと、悪いお化けがいる」

 うん。

「いいお化けをね、悪いお化けから守るのも、お仕事なんだ、私の」

 そうなんだ、すごい。彼菜はお面の下で無邪気に笑う。万芽は一方ではは、と軽く笑って、くるくるとあたりを見渡し始める。

 ありがとう、と父親が言ってから、またしばらく歩いた。やがて父親は近くの茂みに隠れるよう、彼菜に指示を出した。万芽も身を低くし、外から見えないように。

「いいか、彼菜。何があっても出てきちゃだめだ。お面も取っちゃだめだ。私が見えにくくても、取ってはだめだよ」

 はい、と元気よく答える彼菜は、わずかな空間に座り込み、目を輝かせて父親の姿を見ていた。万芽も座って見つめていた。

 父親は少し広い場所に立ち尽くし、いくらか待った。どうしてここまで静かなのだろう、と思えるほど静かな夜。月は暗く、足元さえも照らさない。目を閉じなくとも、闇が迫ってくるようだ。

 足踏みをしていた父親はようやく立ち止まる。彼菜の目がきらりと輝くと同時に、闇の帳を押しのけてくる影があった。

 見た目は父親よりもずっと老け込んでいる初老の男と思われた。よたよたと歩く男は、下ばかりを見つめていた。

 こんばんは、と声をかけられると、気づかなかったのか、ようやく面を上げる男。

「今日もお出かけですか。こんな足元も見えない時に、お疲れ様です」

 彼菜の背筋が震えた。にこりと笑う男の顔は、病人のように白く、笑みに覗く薄汚れた歯はいくつか抜け落ちていた。

「あんたか。ほんと、最近はよく会うね。もう少しで思い出せそうな気がして、探してたんだよ」

 かっかっかっと笑う男と父親は、その場で立ち話を始めた。彼菜にとっては退屈な話ばかりであった。欠伸を噛み殺しながら、眠気に負けまいと目を見開いている。

 少しもすると変化が起きた。初老の男と父親の周囲の闇がうごめいたのである。彼菜は二人から目を離して、その向こう側にいるものが何であるかを把握しようとする。夜の闇には何もいないはずなのに、歩いてくるようだ。

 うごめきは次第に大きくなり、彼菜が何者か理解するまでに、それが男に向かって飛びかかった。

 それは人の背格好と同じだが、人とは似つかぬ、たとえて言うならば鬼であった。その面妖な面持ちに、少女が小さく声を上げた。

 鬼が男へとたどり着くだろう瞬間、父親が楽しそうに笑う男の顔面をよけて、刃物を突き出した。それは男の髪をわずかに切り裂き、鬼の顔面を突く。鬼は突かれただけだというのに、弾かれたように後ろへと飛んだ。

 グシャ、と音を立てて地面に落ちる鬼は再び闇にまぎれる。次の鬼が、おそらく男めがけて、次々と襲い掛かっていく。父親は刃物を振るい、後ろから来たものには肘で追い払い、蹴とばしたり、踊っているようである。真剣なまなざしを向ける彼菜にとっては、長い時間が過ぎていく。

 一方の男は、鬼の存在にも、ましてや父親の存在にも気づいていないかのように、ぶつぶつと不気味にしゃべり続けている。不気味なやつだよ、と万芽はあたりに気を配っている。

 やがて鬼は、闇の奥へと消えていった。父親は軽く息を荒げながら、そうですね、と男に言う。すると男ははたと顔を上げて、そういえば、と口を開く。よほど鈍感なのか、別の理由かは誰も知らない。

「その道は、どこへ続いているんだろうな。ちょっと行ってくるよ」

 男はぐるりとあたりを見渡すと、闇へと消えていった。父親は彼を見送ると、一息ついて、彼菜のいる茂みへと歩いていく。

「彼菜に、万芽様、大丈夫か」

 声をかけつつ、目的の茂みをかき分ける。一回、二回、とかき分けると、顔を青くした彼は乱暴に、さらに草をかき分ける。

父親の顔がどんどん青ざめていく。それからすぐに、彼は娘の名を口にしながら歩いていく。行く当てもなく、たださまよい始めた。次第に歩きは走りとなっていく。

彼菜、彼菜、と叫びまわり、彼はようやく立ち止まった。男と出会い、別れた場所の、彼菜たちを隠れさせた茂みへと戻ってきたのである。膝に手をつき、息をつく父親の目の前には、眠っているように倒れている、お面のない彼菜と、遅かったね、くそ親父、と悪口をたたく万芽がいた。

猛禽は彼菜の上にとまっている。どういうことですか、と父親が愛娘の顔を覗き込みながら説明を求める。

「子供の好奇心を甘く見たね。お面を外したんだよ、茂みの中で」

 その体には何の傷もない。ただ、倒れたことによって土がついていたりしているだけである。

「それで、どうなったと思う。その途端、餓鬼どもがこっちに気づいたみたいでね、襲われる前にちょっと逃げたのさ。あんたの邪魔もしたくもなかったしね」

 舌打ちをする万芽に、感謝の言葉を述べる父親は、薄く目を開いた娘にすまない、とだけ言って抱きかかえた。近くに転がっていたお面を回収し、刃物のない手で持つ。

「万芽様、彼菜の元気がないのは、なぜですか」

 笑顔のまま彼女を見下ろすと、地面に下り立っていた猛禽は仕方ないだろ、と敵意をもって反論する。

「悪かったね。逃げ道がなかったから、あたしの住処まで連れて行ったんだよ。力にあてられたってところ。すぐに元気になるさ」

 そうですか、と了解したような父親は帰りましょう、と下山を始める。来たときよりも短い時間で住宅地まで戻ってくることとなる。その間、父親と万芽は言葉を交わさなかった。足元に集中していたのだ。

「折角、いいところを見せられると思ったんですけどね」

 突然、父親が口を開いた。へぇ、とその後ろから万芽。

「娘にもですね、霊送りを、手伝うと言いますか、継いでほしいんですよ。兄弟も家を出て、手伝ってくれていますから」

 早すぎましたかね、と答えを求める。

「いずれにしても、説明しないといけません。霊は帰すべきなんですから」

 そして決意を固めたような声に、万芽が水を差す。

「そうかい。あんたが馬鹿みたいなことをしてるのはよーく分かったよ。そんなことをしても、意味、ないんだけどね」

 それに、父親は答えない。

 やがて住宅地と駄菓子屋の間にある道へとたどり着く。あともう少しだ、と父親はお面を被せた娘を抱えなおす。彼菜はいつのまにか眠っている。

「おや、またお会いしましたな」

 そのとき、聞き覚えある声が父親と万芽に届いた。山のなかにいた男が、道の真ん中であらぬ方角を眺めていたのだ。星でも眺めているのだろうか。一瞬遅れて、そうですね、と父親は眉尻をぴくりと動かして答えた。

 ひとまず男のもとまで、父親と万芽は歩き、立ち止まる。行かないのかい、と尋ねられるも、答えはない。

「そういえば、どうしてこんなにお会いするんでしょうね。運命ってやつでしょうか」

 ははは、と笑う男は彼菜に気づいていない様子である。万芽にも。

 父親が黙っているうちに、また周囲の闇がうごめいた。警戒し始める猛禽に、悔しそうに歯を食いしばる父親は、その場から動けずにいた。

「逃げるなら逃げるんだよ。馬鹿かいあんた」

 猛禽はそう叫ぶものの、羽ばたこうとはしなかった。首をひねり、悩むそぶりを見せる男はやはり闇には気づいていない。

 無理だ、と父親。足踏みしている間にも、闇はどんどん濃くなっていく。

「何が無理なんだい。こんな亡霊、置いていったって何の損もないでしょうが。馬鹿かい」

 やがて餓鬼が現れた。闇から這い出てくるそれらは男へと襲い掛かる。それに加えて、親子と猛禽にも。万芽はちくしょう、と呟くと軽く飛び立ち、同時に化けた。

 父親と同じくらいの背丈の猛禽へと化け、襲い掛かる餓鬼に向かって鉤爪を振り下ろしていく。骨っぽい肉をついばみ、踏みつぶす。とびかかられたなら嘴で引きはがしていく。凄惨な光景が広がっていく中、父親は動こうとしなかった。

 彼菜を下すわけにはいかない。

 父親は自由な足で、どうにか餓鬼を男から退けようとした。しかし致命傷とはならず、数が増えるばかりであった。一方で、男はまた一人で何かを熱弁し続ける。

 やがて父親は、倒れていた餓鬼に足を取られて、受け身をとることもできずしりもちをついた。馬鹿、と叫ぶ万芽は餓鬼に手間取りながら彼らを顧みる。男の後ろに鬼が迫っている。

「どうしたんだい、何もないところで転んで」

 そんなこと気にせずに、男は父親に手を差し伸べた。とても白い肌は死人のようだ。慌ててその手に触れようとした父親は、ぴたりと止まった。

 すでに男の手の平には、ずっと小さな手が触れていた。霊のものであるそれを。

 すると男は、いつの間にか外れていたお面に隠れていた彼菜を見ていた。孫を見るかのような優しい視線である。餓鬼はその間にも、男の背後でうごめく。

「ああ、そういえば、元気に生まれましたか、孫は」

 はい、と父親は答えた。彼菜の視線が、男と父親を行き来する。

「そうか。ありがとう。それがわかれば、もういいよ。悪かったね、お兄さん」

 男の顔の皺がなおさら深くなった。広角もぐっと持ち上がり、歯の間に闇の見える闇を見せながら、ふっと消えた。空気に溶けるように、さもそこにはいなかったかのように。

 それと同時に、餓鬼の潜む闇はどこかへと消えてしまった。後には、取り残された餓鬼と、それを狙う猛禽、膝をついて呆然としている男と。そしてぼんやりと目を開く娘がいた。

 餓鬼を追い払おうと躍起になっている万芽を尻目に、父親はそっと彼菜を抱きしめる。ありがとう、と耳もとでつぶやく。

 そして彼らはようやく駄菓子屋へとたどり着いた。唯一起きていた母親に出迎えられる頃には、彼菜は再び寝入ってしまっていた。

 母親の手を借りて、彼菜を布団に寝かしつけた。万芽にその場を任せた夫婦は別の部屋へと行ってしまう。

 いつもと同じ静寂があたりを満たし、虫などの声が微かに耳に届き、寝息が近くにある夜が、ようやく彼女たちのもとへと帰ってきた。ふう、とため息をついた万芽は彼菜の枕元に座り込み、顔を覗き込む。

 表情の読めない眼はじっと幼子の健やかな姿を見つめ続けた。お面が外れていた際についたのであろう汚れや、裾にひそめた刃物と、籠手もそのままに。

「お疲れさまって、言っておくよ。彼菜」

 独りごとの後、万芽も目を閉じて、寝息を刻み始める。少しだけ逆立つ羽毛をゆっくりと沈めながら。


---


「それ以来、あんたは霊を送る仕事を始めた。そんなに楽しかったかい、彼菜」

 もちろん、と答える彼菜と、万芽の声を発する少年が廊下をギシギシと音を立てながら歩いていた。その手には卓上で遊べる遊具が各々ある。お面を手にした後、遊べるものはないかと倉庫をあさっていたのだった。その結果、おもちゃを見つけることができたのである。

「あんたもまんざらでもないでしょ。手伝ってくれたときも楽しそうだったし」

 はは、と万芽が笑うものの、少年には変化はない。

「そうかい。別に楽しくなんてなかったさ。あんたのお世話しなきゃならなかったし、尻拭いもね。世話のやけるやつだよ、ほんとさ」

 二人は彼菜の部屋まで戻り、おもちゃのひとつを部屋の真ん中に、もう一つを角に置く。二人は一つ目のおもちゃを挟み、対面するように座った。

 駒を次々に並べていく彼菜が、やり方わかるよね、と問えば、わかるよ、と少年が駒を眺めながら万芽が答える。その結果、本来お互いから見て同じ配置なるはずだが、そうはならなかった。

 お互いに見比べてみると、一つだけ駒が足りないのである。

「ちょっと待ってな。もう少ししたら、その駒作って、そっちに行くからさ」

 了解した女性はごろりと寝転ぶ。天井を眺めながら、猛禽の到着を待つのであった。暇だなぁ、と呟いても、少年はお面をかぶったまま、おもちゃの戦場をぼんやりと見つめていた。

 今か今かと突撃の時を待つ盤面の駒たちは、部屋の中で二人の指揮官を待つ。

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