other side 13.5
魔法陣で少年が転送されたのを確認して少女は息をついた。
さっき少年が言った言葉。
(後味が悪い・・・・・・)
少女は知っていた。
反逆者達が今日あのアリーナを狙う事を。
それを知っておきながら彼を助けたふりをして死地へ向かわせたのだ。
雨でも降りだしそうな、どんよりと厚い雲は彼女の心の中を映したようだった。
「考えててもしょうがない」
首を振って、纏わりつく嫌な気を払うと道の先————彼らが待っている隠れ家へ向かった。
◇
結界によって隠された道の一番奥。
そこには一つのマンションがあった。
三階建てのマンションはお世辞にも大きいとは言えないが、ここに住んでいる住人は少ないので、これでも部屋が余るほどだ。
玄関をくぐり、狭い通路を抜けるとそこには一段と広いスペースがある。
そこに、国際色豊かな数人の少年少女が集まっていた。
その中にはさっき表へ出ていたミルスの姿も見える。
「ああ、帰ってきたかシルヴィア。適当な場所に座っててくれ」
「みんな集合をしてるってことは何か重要な会議でもするんですか、翔太」
「そんな会議なんて大層なものでは無いよ。ちょっとした話し合いさ」
日本人らしき顔立ちの白衣を着た少年が少女————シルヴィアに声を掛ける。
だだっ広い空間には翔太と呼ばれた白衣姿の少年を囲むように、他の仲間も座っていた。
その輪の中に適当な空間を探して腰かける。
翔太は適当なタイミングを見計らい、咳ばらいをすると話し始めた。
「さて、今回集まってもらったのは他でも無い、今日の侵入者の事だ」
話を始めるや否や一人の小さな少年が手を上げた。
「どうしたんだい、ディム」
「僕の結界は何処にも異常はなかったから、僕のせいじゃないからね?」
指名を受けると、自分に責が無い事を捲し立てる。自分の誇りが傷付けられると思ったのだろう。
翔太は右手でそれを止めると、
「今回の事件の原因については大体考察がついている。特に誰かを責めるような事はしないから安心してくれ」
それを聞いたディムは、安心したように表情を和らげた。
「でも、それならそれで妙ね。だとすると彼はどうやって侵入したのかしら? ディムの結界の力はあのバルチアスでさえ一目置いてるもの、力尽くで開けられるようなものではないわ」
輪から少し外れた場所に居た双子らしき姉弟の姉が呟く。
ディムが作る
翔太は手元のパソコンを操作し、何かの映像を開くとプロジェクターらしきものに繋ぐ。
「監視カメラの映像をさっき確認してみたんだけど・・・・・・彼はシルヴィアが結界内に入る瞬間を見ていた様なんだよね。それで結界の入り口付近を何回も往復してたんだけど————ディムまさか彼を誰かと間違って結界を緩めたとか無いよね?」
「まさか。この場に全員揃ってたのに間違うはずなんて無いよ」
「さっきアイツと手合わせした限りでは、大した力も無かったし、結界を強行突破したなんて考えは無いだろよ」
「何かの手違いがあった訳でも無い、かといって結界を破ったという線も薄い・・・・・・私にはお手上げね。頭のいい方に任せるわ」
「そうは言われてもな・・・・・・彼が何らかの力を持っているとしか解釈のしようがないが、そんな万に一つの可能性に当たるとは考えにくいし————」
皆が頭を抱えて考え込む中、一つの声が上がった。
「本当に————そうなの?」
それは今まで一度も会話に加わっていなかった姉弟の弟のものだった。
皆の注目を浴びた声の主は、恥ずかしそうに姉の陰に隠れる。
「どういう事なの? 皆に話してごらんなさい」
姉の説得を受け、か細い首だけを出したものの、目をキョロキョロさせるばかりで口は一向に開かない。
「おい、早く話せよ。話さないんじゃ何も分かんねぇだろうが」
ぶっきらぼうに言うミルスだったが、その口調と目元はいつもよりも随分柔らかいものだ。
そのお陰か姉の陰から出てきてゆっくりと話し出す。
「僕たちだって人間からはかなりはみ出た存在だよ。そんな僕たちが存在するなら、もっと逸脱した存在が居たっておかしくないとは思わない?」
それだけ話すとすぐにまた姉の陰に戻った。
しかしその言葉はそこそこの重みと説得力がある。
「確かに可能性がゼロで無い以上、その考えを捨て去る事もできないですね・・・・・そんなイレギュラーな存在なんて考えたくは無い事ですけど・・・・・」
「どうしてだ?」
「だってそんな奴が敵にまわってしまったら、どうやっても勝ちようが無いじゃないですか————」
「その心配はいらないみたいよ」
その時広間のドアが勢いよく開け放たれ新たな仲間が入ってきた。
翔太はメガネのフレームを押し上げる。
「それはどういう事だい〝夏美〟?」
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