3-8 ツンデレ少女Ⅲ

 やってしまったッ! アレではただ高慢こうまん我儘わがままなコミュ障の可愛げのない美少女(自称)ではないか。美少女という生き物は気難しい生き物である。かくいう私もその一人である。私の場合は主に劣悪れつあくな家庭環境が性格を捻じ曲げる片棒を担いでいた。

 自ら現状を打開しようなどこれっぽっちも考えたことのない私は無気力を体現した存在でありながら、どこかでそんな自分を変えてくれる何かを待ち望んでいた。そんな他力本願たりきほんがんな性格が社交性の欠如に拍車はくしゃをかけていた。

 周囲の人間はスマートフォンに眼を落とし歩く。また立ち止まり大した用事もないのに長々と操作を続ける。そのために通行の妨げになっているなどということには気付きもしない。もしくは気付くどころか、どの程度の迷惑をかけているのか理解したうえでロードコーンを務めているのかもしれない。

 本当にただ邪魔なだけだから消えてもらいたい。いや、私が消えればいいのか。ただ邪魔なロードコーンにも家族がいて親の愛情を一身に受けて育ったのだろう。それに対して自分は……。ああ、やめやめ。考えてしまうほどみじめな気持ちになる。そんなことより今は―数十センチ隣から聞こえる吐息に耳を澄まし横目でその姿を幾度となく確認する。ああ、手の届くところに、いや、私の吐く息が頬を撫でる距離にがいる。

 

 「傘、貸してくれたお礼。何かおごったげる」

 咄嗟とっさに出た精一杯に背伸びした言葉だった。

 戸惑いながらも「えっ、いいの?」と前向きな返答。

 このまま押し切れると畳み掛ける。

 「ほら、もう行くよ。それとも行かないの? 私、そんなに気長くないんだけど」ああ、私の馬鹿ッ! なんで余計なひと言付け足しちゃうかなぁ。我ながら中々にこじらせていると思う。しかし、そんな私にも彼は「ごめん」と頭を下げる。そして「何を奢ってくれるの?」と好意を前面に押し出した表情でこちらをうかがう。

 「こっち」

 歩き方変じゃないかなぁ。右足を踏み出した時の右手は前? それとも後ろ? 日常生活で培った人間としての基礎能力すら覚束おぼつかない。

 早速問題が生じてしまった。

 お財布の中にはギリギリ四桁に乗るか乗らないかという程度しか入っていない。

 大したお礼はできそうにない。

 ある意味私らしいか、と開き直ってみる……。

 うん。やっぱりダメだ。格好がつかない。

 頭の中の天使と悪魔がささやく「ドンマイ」と。


 

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