3-4 奴隷女Ⅲ
久しぶりに味わう陽光は暖かく、身体を芯から温めてくれた。
爪の間には土や砂利が入り込み黒く汚れている。
掌にも土が摺り込むほど入り込み手相がよりくっきりと浮き出る。
(あっ、結婚線見つけた。生命線短ッ!?)
「何してるの! 速く作業終わられないと、どんな目にあわされるかわからないよ!」
同僚は急かすように言うと作業に戻っていった。
「は~い」と間延びした返事をして後に続く。
今日は陽が昇る前から屋敷の離れにある一角に設けられたガーデニングエリア(草花は一本たりとも植えられてはいない)に深さ数メートルの竪穴を掘っていた。
現在進行形で掘り進めている穴は三つ目。すでに掘った二つの穴は同僚の男性たちによって崩れてしまわないように叩いて固めている。
屋敷の使用人の一人が巡回している。
「貴様ぁッ! しっかり働かんかッ!」
調教用の
―バチィンと凄まじい音と共に男性の
女性に対して暴力を振るわないのが唯一の救いと言える。
しかし、
「早く作業を済ませろ。もうじき運ばれてくるぞ」
そう言うと
しばらくすると手押し車に山積みにされた
「あと二台来るからな。全部埋めておけ」
「はい」と力なく返事をする。
「まったく奴隷風情がッ」と吐き捨てるように日頃の生体機能の歪み(ストレス)を一方的に押し付けて帰って行った。
同僚の女性が「ハイ。穴掘りは終わり。次の仕事に移るわよ」と自分の背丈の倍以上ある竪穴から這い出る。
「あなたも早くしなさい」と差し伸べられた手を掴み、引き上げてもらい竪穴から脱出する。
「こっちの穴もお願い」
「ああ、わかった。すぐに行く。一つ目の穴なら作業は完了している」
「ありがとう。いつも丁寧に仕事してくれて」
「……こんなことしかできねぇからな」
淡々となされる会話の中にはどこか
いつみてもこの光景は吐き気を催し、気分を害する。
彼女たちは悪くはない。悪いのはすべてこの国―この世界だ。
そして私たちは今日も元同僚の彼女たちの変わり果てた遺体を一人ずつ丁寧に竪穴の中に寝かせた。
身体がミンチ状にされた遺体。痩せ細った身体から骨が着き出した遺体。頭部のない遺体。頭部以外のない遺体。内臓を抉り出された遺体。他にも数多の遺体が山積みにされて運ばれてくる。
「ありがとう。みんなのこと大好きだったよ」穏やかな笑みを必死に浮かべる。とても悲しく、私にとっては本当の家族だった、と心の底から想っていた。溢れ出す涙は彼女たちから受けた愛情の分だけ止めどなく溢れ出した。
隣に寄り添う同僚が私に代わって彼女たちを埋葬した。
(名も知らぬこの世界の神よ。私たちをどうか救ってください。耐え忍ぶことはできます。しかし、私は仲間の死をこれ以上受け止めることができません)
少女の悲痛な叫びに答える声があった。
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