第三章 追憶~女神の降臨~

3-1 prologue

 「んんッ……」声にならない声を上げる。

 少し息も荒いようだ。

 汗もおかきになられている。顔色も優れない。もともと白く透き通る肌の持ち主ではあるが、あまりにも血色が悪い。それでも自分如きとは比べ物にならないくらいはお美しい。

 やはりまだ本調子ではないのだろうか。

 め。その場にいることができたなら好みを盾にお守りすることができたのに、と悔やむ日々。

 「ああ、なぜ私はあの日呑気にお茶会などを開いてしまったのでしょうか」

 心の悲痛な叫びが溢れ出す。

 「うるさい」と頭を叩かれる。

 「ああ、フェリス様。ご気分は如何ですか? うなされていたようですが」

 「あら、そう? でも大丈夫よ。私ならいつも通りだから」

 「しかし、まだ魔力も完全に回復していないのでは? 御髪の色も本来の銀髪とは程遠く―もちろん、今の御髪おぐしも素敵なのですけれども―」

 「本来の私ではないと?」寂しげな瞳に同調するように声のトーンも少し低くなる。

 「そのようなことはありません」反射的に答える。

 視線がぶつかる。

 微笑む彼女が寂しそうなのは気のせいではない。

 静寂の中彼女は自らの髪の手入れを始める。

 そして、髪の毛先に残った漆黒を眺めながら呟く。

 「私はも好きよ」

 私にはその言葉に込められた本当の意味に気付くことはできなかった。

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