2-19 知られてはならないⅡ
必死に追いかけたいところではあるが今は月島悠遠を演じているので目立った行動は避けたい。
自然とキメラを追う速度は落ちる。
しかし、最後には飼い主の下に戻るのだからどこに向かっているのかはわかる。
元準備室に向かって歩数を増やす。
教師というものに嫌気がさす。
何事もなければゆっくり歩いても五分もあれば到着したであろう元準備室に到着するまでに二十分以上もかかってしまった。
気疲れだろうか。大して激しい運動をしたわけでもないのに額には汗が浮かび、背中にはじっとりとした感覚あり、息も少し乱れている。
扉の前で大きく深呼吸。
ふぅ……。
息を整え、扉をノックする。
「はい」扉によって隔たれた声が辛うじて聞こえる。
「失礼しますよ」と教師の威厳を保ちつつ扉を開けると躊躇せずに室内に踏み入る。
「何か?」ついさっき会いましたよね? と疑問符を浮かべた表情で尋ねてくる。
「ああ、実はね……」思案する。
どのように話を切り出すべきなのだろうかと。遠回しに探りを入れてみるか、包み隠さずすべてを話すか。包み隠さないわけにはいかない。しかし、遠回しに探りを入れた結果変に勘ぐられることは避けたい。ここは程よい厚みのオブラートに本質を包んで有無を言わさず呑み込んでもらおう。
「実はさっき廊下で君たちのところのキメラが何かを咥えて駆けて行くのを見かけてね。教師としては問題が起こる前に危険なものかどうかの確認をしておきたいと思ってね」我ながらよく弁が立つものだと自画自賛。
「ああ、あの骨ですか」
「骨?」
「ええ、どこからか咥えてきたみたいですけど」
「その骨は今どこに?」
「あそこですよ」と指を指す。
示された先には骨にガジガジかぶりついているキメラがいた。
「あの子栗鼠とライオンのキメラで栗鼠の習性でいろんなところに食べ物とか隠しているみたいです。あの骨もその一つみたいですぅ。すみませぇん」
状況を説明してくれた女生徒は、なぜ謝っているのだろうか。
「骨かじってるところを見たらライオンぽさが増すな」と笑う男子生徒。
部屋の隅には他にもいくつかの骨が転がっていた。
「かなり骨があるね」
「好きなんですかね?」
「でも犬猫用の玩具にも似たようなものがあるしライオンとしての本能が骨を求めているのかもね」
「つ、月島先生。危険物じゃなかったってことでいいんですよねぇ?……」
「ああ、そうだね。問題はないみたいだ。それでは失礼するよ」
「お、お疲れ様です」
「お疲れ~」
二人に見送られ部屋を後にする。
どうやって回収すればいいんだッ!
のた打ち回りたくなる衝動を必死に抑え、歯軋りする。
解決策の見当も付かない。
頭を抱えたまま一人寂しく廊下を歩いて一人になれる場所を求めて彷徨い歩く。
その背中は月島悠遠のものではなかった。
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