2-18 知られてはならないⅠ

 前方から歩いてくる二人の生徒。こちらにはまだ気が付いていない様子。

 少し脅かしてやろうか。いや、待てよ俺。月島という教師のキャラではないな。冷静に自分の演じている学院の教師、月島悠遠つきしまゆうえんという男であればどのような行動を取るのかを考える。

 だ。間者かんじゃ(スパイ)として目立つ行動は避けるべきだが、本来の性格とあまりにも違いすぎる。

 月島悠遠ならこの場合―。

 「二人とも昨日は何をしていたのかな?」

 俺は柔らかい口調を心掛けながら声を掛けた。


 生徒と別れて歩き出す。

 演じるというのは中々に難しい。

 テレビの中の俳優に演技が鳴っていないと文句を言うのはもうやめよう。こんなにも演じるということは大変なのだから。しかし、画面の中の俳優たちは俺ほどの苦労はしていないのではないか、だとしたら俺は俳優たちに文句を言ってもいいのではないだろうか。

 十数秒前に感じた画面の中の俳優たちに対する尊敬リスペクトはすでに霧散して消え去っていた。

 それにしても、大臣直々のご達しとは厄介なことこの上ない。

 聞き耳を立てている悪い子がいるようだ。

 振り返ると手を振る動作に合わせて音を遮断する結界を張る。

 これでこちらの会話は聞こえなくなっただろう。

 神経を磨り減らす。こんな仕事はもうたくさんだ。今度同じような仕事を受けたらキッパリとノーと言ってやる! と心の中で息巻く。俺という人間は、実際には文句の一つも口に出すことのできない小心者である。

 通話を終えると正面からトコトコと小さな歩幅で駆ける獣が一匹近づいてくる。

 アレは確か、先程の生徒二人が連れていたキメラである。

 何か白いものを咥えている。

 近づくにつれその白いものが眼に飛び込む。

 ―ッ!?

 「ちょっと待てッ!」キメラは足元を縫うように蛇行走行。

 捕えようとする手を上手くすり抜けて躱す。

 飼い主の下に帰ろうとしているのか。

 まずい、まずいぞ。アレを見られてはまずい。

 慌ててキメラの後を追った。

 

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