2-16 密談Ⅰ
彼は都会の喧騒の中にポツンと場違いな新緑に囲まれた公園に来ていた。
春の風は未だ冷たく吹き荒ぶ。
今日は彼の付添いで京の山奥から出張ってきたというのに私たちを呼びつけた張本人の姿が見当たらない。
「最近の政治家は横着な気がします」頬を膨らまし唇を尖らせる。
「そんなことを言うものではないよ。
「でもねアキちゃん。私はいつまでもこのままじゃいけないと思うの」
「このままじゃいけないって? それにこれからお偉いさんとの密談なんだからアキちゃんはよしてよね」尻すぼみに声が小さくなる。
もう可愛いなぁ~アキちゃんは。仕事をしている時とのギャップが堪りません。これが所謂ギャップ萌えというヤツなのかと、爆発寸前の妄想脳に突き刺さるように彼の普段より低い声が届く。
あっ、仕事モードの声だ。
彼の見据える先に黒塗りの車が止まる。中の様子は窺うことができない。いかにもこれから密談を行う政治家が乗っていそうな車である。
「操、口を慎みなさい」
「また人の心を読みましたね」咎めるように言う。
「いやいや、操ずっと漏れてたから……ギャップ萌えとかも」ため息交じりに注意する。
「それで今日の密談相手はどなたなんですか?」と強引に話題の方向転換を図る。
「はあ……まあいいや、今日の依頼は厄介なことになりそうだから気は抜かないでくれよ」
彼の顔は言葉とは裏腹に強張っていた。
黒塗りの車から降りてきた人物を見れば誰でも背筋を伸ばすことだろう。
防衛大臣、一ノ瀬晴隆その人である。
大臣というより、内密に持ってきた案件というのが厄介ごとであること請け合いなのだ。
私はそっと彼の手を握る。
「大丈夫です。参りましょう、明彦様」
私も仕事モードへと入る。
彼の三歩後ろを歩く。
私は彼と共にこの時代を歩むと決めている。
それを邪魔する者は誰であろうと排除する。
「戦争をしに行くのではないよ操。リラックス、リラックス」
無意識のうちに殺気がだだ漏れになっていたようだ。私もまだまだ未熟だと反省。
「申し訳ありません。営業スマイルは完璧です。あのおじさんもイチコロです」
「おじさんって言っちゃダメだよ操」
二人は心穏やかにおじさん―防衛大臣の下へと歩み寄っていった。
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